こだわりの「衣文」と「瓔珞」
一般的には知られていないことだが、仏像製作には、平安時代に定められた「儀軌」というルールがあり、身体の幅、手の位置、腕の動きなどが厳格に定められている。そのなかである程度の自由が許されているのが、仏像の衣。これを衣文表現という。瓔珞と呼ばれる胸飾りも比較的自由度が高く、宮本さんは衣と瓔珞に腕を振るう。
「新しい仏像を造る時、昔に造られた衣の彫刻を見て再現する仏師もいると思いますが、僕は布を彫る時に布を実際に畳んでみて、そのドレープを表現するということを徹底しています。瓔珞もぜんぶ自分でデザインしていて、アールヌーボーの形を取り入れたりしています。仏像の装飾にもペルシャ時代の文化が入っているので、西洋の美意識と通じるところがあるんですよ」
この独特の表現が注目を集めるようになり、右肩上がりで注文が増加。現在は京都市南区に工房を構え、弟子4人とともに製作にあたる宮本さんは、2015年に独立してから50体以上の仏像を納めてきた。
修復の依頼も多く、過去の仏師たちとの無言の交流は、大きな刺激になっているという。
「数百年前の名もなき仏師が造った仏像でも、これはすごい技術だと震えることがあります」
宮本さんを衝き動かすのは、「とにかく美しい仏さま」を造りたいという強い想い。そのために、常に意識のアンテナを張り巡らせており、実在の人物の顔を参考にすることもある。例えば、フィギュアスケーターの浅田真央さんは観音さま、俳優のディーン・フジオカさんは韋駄天を造る時に一部の要素を取り入れたという。