男が一糸纏わぬ姿で護符を奪い合う激しい祭り

黒石寺蘇民祭の場合、男が一糸纏わぬ姿で護符を奪い合う、激しい祭りが1000年以上、続けられてきた。毎年旧正月の深夜から翌未明にかけて行われる。厳冬期の東北における裸祭りだから、それこそ命がけである。

祭りは梵鐘の合図で始まる。男たちは、近くを流れる瑠璃壺川で水垢離を済ませると、「ジャッソー、ジョヤサ」の掛け声とともに本堂と妙見堂を3巡し、災厄消除と無病息災、五穀豊穣ほうじょうなどを祈願する。

午前零時前には井桁に積んだ松の木に火がつけられ、男らはその井桁に上って火の粉を浴びるという「柴燈木ひたき登り」の儀式がある。まるで護摩焚きの中に生身の人間が飛び込むような、荒々しいシーンである。

そして、午前5時頃に祭りは最高潮を迎える。いよいよ護符の争奪戦だ。蘇民袋の中に、小間木と呼ばれる長さ3cmほどのヌルデの木でできた六角柱の護符が5ますにひとつ分入っている。その中に「蘇民将来子孫門戸也☆(晴明斑紋)」と「、、、、、、」と省略されたものの2種類入っており、文字が書かれた少数の護符を得たものは特に大きなご利益が得られるという。

蘇民袋が小刀で切り裂かれて、中の護符がばらまかれると、裸の男たちは護符と空になった蘇民袋の取り合いを2時間余りにわたって繰り広げる。最終的には袋の首の部分を持っていた者が取り主になって祭りは終わる。

日本三大奇祭の一つに数えられることもある黒石寺の蘇民祭
写真=時事通信フォト
日本三大奇祭の一つに数えられることもある黒石寺の蘇民祭。ふんどし姿の男たちが「ジャッソウ、ジョヤサ」という掛け声を上げながら寺の周りを巡り、火の粉を浴びて五穀豊穣や無病息災を祈願する(2011年2月10日、岩手県奥州市水沢区)

この不思議な蘇民祭り。近年はなにかと物議を醸した。2008(平成20)年には蘇民祭に先駆け、奥州市は胸毛が生えた男性らが写ったポスターを制作。そこでJR東日本管内の駅に掲示すべくJR東日本側に申請したところ、「女性客に不快感を与え、セクシャルハラスメントに該当する恐れがある」などとして掲示を拒否。また、警察の指導も入った。蘇民祭はそもそも全裸で行われるものだが岩手県警が「公然わいせつに該当する恐れがある」として、下帯の着用を命じた。

さまざまな話題を振り撒いた蘇民祭だが、来年2月17日の開催が最後になる。理由は祭りを担う関係者の高齢化と担い手不足である。最後の祭りも、午後11時までの短縮となるという。コロナ禍では中断し、今年は3年ぶりの再開となっただけに、残念だ。

黒石寺の藤波大吾住職は公式サイト上で、「今後可能な限り祭りを継続することも検討しましたが、祭り直前での急な開催中止等、多くの皆様にご迷惑をかけかねない事態の発生を防ぐため、祭り自体を行わないという判断に至りました」と表明した。