学生への注意に10分近くを費やす
通年2.5コマというと、前期に週3コマ、後期に週2コマとなる。週に3コマだと、たとえば月曜日の午後に1コマ、水曜日の午後に1コマ、金曜日の午後に1コマ、これなら授業とその準備があるにせよ、それほどの負担にはならない。これが通年8コマとなるとどうなるか?
月曜日に午前中に1コマ、午後に1コマ、火曜日に午後に2コマ、金曜日は午前に1コマ、午後に3コマ……。すべての授業内容が異なり、語学科目のようにリピートで済ますことはできないし、学部の1年生から大学院の修士課程2年生までを相手にそれぞれのレベルに合わせた授業をしなくてはならない。当然、講義の前にはその準備が必要になる。さらにゼミではレポートの採点や論文指導なども発生する。
とくに大人数を相手にした講義はたいへんだ。大教室で300名を超える授業となれば、鐘が鳴っても授業を聴く体勢にあるものは半分もいない。こんなに大勢の学生がいれば自分ひとりくらい大丈夫だと思うのか、右奥の女子学生はメイク中、左奥の男子学生は後ろを振り向いて雑談、ケータイをいじっている学生も散見される。
「静かに」「授業中メイクはしないでください」「ケータイもしまって」と注意し、授業開始の態勢を整えるだけで10分近くを費やす。講義中も、後方座席から私語と甲高い笑い声が聴こえてくる。
「よく眠れなかった」という感想文も
マイクを持って講義を続けながら階段を駆けあがる。
「さて、それじゃあ質問に答えてもらおうかな。カナダの首都はどこだっけ?」
私語グループで一番うるさかった男子学生にマイクを向ける。
「トロントですか?」
「惜しい。トロントではなく、オタワだね。『カナダ人がオタワにオッタワ』と覚えるといいよ」
オヤジギャグに学生は無反応だが、とりあえず静かにはなった。授業終了の10分前、授業の感想文を書いてもらい、収集する。「よく眠れなかった」というふざけた回答を見ても怒ってはいけない。
午前中に1コマ、午後に3コマをこなした日など、4コマ目の授業では、疲れと酸欠のせいか、頭がぼーっとして自分が何をしゃべっているのかわからなくなることもある。また、3日間で8コマをこなしたときには、疲労困憊で呆然とした状態のまま帰途につくこともあった。
ゼミ科目での単位認定は試験ではなくレポート(論文)の内容によって行なわれる。多井ゼミでは、まず第一稿を提出させ、それに私が赤字(修正)を入れ、それを受けて学生が手直しした最終版をもとに成績をつけることにしている。最初はおぼつかない文章の羅列が、読みやすく仕上がっていくのを見るのは楽しい。だが、提出する学生たちも一筋縄ではいかない。