女性皇族をめぐる無理筋のプラン
これまで、内親王・女王は男性皇族と違い、ご結婚とともに皇族の身分を離れられるルールだった。それを改めて、ご結婚後も皇室にとどまっていただけるようにするというのが、有識者会議の1つの提案だ。これが制度化されれば、ひとまず目先だけ皇族数の減少を遅らせることはできる。
しかし、肝心の皇位継承のルールそのものが、側室制度によってかろうじて支えられてきた、旧時代的な「男系の男子」限定のまま。だから、ご結婚後も皇室にとどまられた女性皇族に皇位継承資格はなく、お子様がめでたくお生まれになっても同様だ。
そんなルールでは、女性皇族方がご結婚後もご不自由な皇族の身分にとどまられる意味が、まったくない。皇室を次の世代に受け継ぐために、何の貢献もなしえない。
先の提案では、女性皇族と結婚された配偶者とお子様は「国民」とされる。そのような制度だと、憲法第1章(天皇)が優先的に適用される「皇族」と同第3章(国民の権利及び義務)が全面的に適用される「国民」が“一つの世帯”を営むという、異常な事態を招く。わが国の社会の実情に照らして、どう見ても無理でムチャなプランというほかない。
長官発言の背後に見えるもの
現状では唯一の次世代の皇位継承資格者であられる秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下のご結婚相手はどうなるか。
昭和の皇室典範で歴史上初めて採用された“一夫一婦制のもとでの男系男子限定”ルールが維持されたままなら、「必ず男子を生まなければ皇室そのものを滅ぼす」という、とてつもない重圧を避けられない。そんな条件下では、これまで繰り返し指摘されているように、ご結婚自体のハードルが果てしなく高くなる。
今のルールのまま、失礼ながら万が一悠仁殿下が未婚のまま過ごされたり、ご結婚されても男子に恵まれられなければ、皇室はたちまち行き詰まる。
だから、「男系の男子」限定を維持したままの小手先の皇族数の確保策では、何ら問題の解決にはならない。本気で皇位継承の安定化を目指すならば、ルール自体の根本的な見直しが不可欠だ。
このようなインパクトの強いメッセージを、先の懇談会の初会合の直後のタイミングで、他でもない宮内庁長官自身が少し控えめな表現ながら、しっかりと打ち出した。そのように私は受け止めた。
改めて言うまでもなく、宮内庁は内閣府に置かれた内閣総理大臣の管理に属する一機関に過ぎない(宮内庁法第1条)。その責任者である長官が、「皇位継承」という国家にとって極めて重い意味を持つテーマについて、岸田政権が目指す方向性に公然と「待った」をかけるような発言をしたことになる。
問題の重大さに鑑みて、これを西村長官の独断による発言と考えるのは、無理がある。
その背後には、畏れ多いが天皇陛下をはじめ皇室の方々ご自身のお考えがあると拝察するのが、自然ではあるまいか。