ここ最近では異例の不祥事対応
日本大学には危機管理学部があるが、今回の事件では皮肉なことに大学の経営陣が反面教師になってしまった。薬物汚染疑惑が起こった時点で、まず大学が率先して事件を徹底的に糾明し、それをメディアに詳細に公表し、再発防止策を発表していれば、アメフト部が廃部の憂き目に遭うことはなかったのではないか。
筆者は企業で広報や広告の仕事をしていたが、不祥事が起こった際の鉄則は「バッドニュースにはできるだけ迅速に」というものだった。
要するに時間が大事なのだ。今の世の中は、言い訳や責任回避をだらだら繰り返しているうちに、SNSを中心に世論が大炎上する。そうなってしまえば、不祥事の処理だけではすまなくなり、組織の体質そのものが問われ、組織存続の危機につながりかねないのだ。
この点、楽天の対応は違った。
発端は11月から始まった契約更改だった。複数の選手が球団幹部に安樂のいじめ、パワハラを訴えたのだ。すぐに球団側は選手、関係者137人へのヒアリングに着手。
11月26日にはヒアリング結果を取りまとめ、30日には記者会見を行い、安樂の処分を発表するとともに、再発防止に向けた対策までを一気に発表した。
安樂への処分は、謹慎処分や育成枠への降格などではなく「自由契約=クビ」という厳しいものだった。
自らで問題を見つけ、すぐに詳細を調査し、処分と同時に再発防止策を出すのは、ここ最近の企業の不祥事対応では異例と言えるだろう。
「ツッコミどころがほとんどなかった」
11月30日、記者会見した楽天野球団の森井誠之社長は
「これまで報道がなされていた事象について、安樂選手に関してほぼ事実ということが判明いたした」と明言した。
その上で、「球団内の事象にもかかわらずここまで問題が大きくなるまで事態を把握改善できなかった」として月額役員報酬の10%を2カ月間自主返納することを発表。
さらに契約更改の機会以外に、選手が悩みを訴える機会がなかったことから、相談窓口を設置するとともに、選手に対して研修、啓発を進めるとした。
安樂の処分で筆者が目を見張ったのは、森井社長が「ただ、契約意思ありとは思ってほしくない。現在の状況で契約できない」と言及したことだ。
過去のプロ野球選手が起こした不祥事では、処分は形式的なもので、ほとぼりが冷めれば復帰することが多かった。世間も安樂の自由契約は形だけだと見ていただろう。
球団側はそれを否定した。「安樂自身が心底から改悛の情を表し、生活態度や言動を改めない限り、再度の契約はしない」(森井社長)と釘を刺したのだ。
加えて「今後、彼が助けてほしいというときに前所属球団としてサポートする」とも語った。
安樂のやったことについて事実関係を厳格に明らかにし、果断な処分をするとともに、管理責任を明らかにし、再発防止策も発表した。その上で、安樂へのフォローもした。
この会見には、球団の顧問弁護士であるTMI総合法律事務所の稲垣勝之氏も同席したが、専門家の助言も得て過不足ない対応ができたのではないか。
SNSでは「ツッコミどころがほとんどなかった」という投稿を目にした。スピーディーな対応も称賛されるべきだろう。1カ月後に同じ会見をしても、世間の反応は同じではないだろう。