決して裕福とはいえない

ある大手保険会社が今年行った調査では、年収1000万円以上の世帯でも、安心して子育てをするためのお金が不足しているという人の割合が7割超、子育てにかかる費用が精神的負担になっているという人が57%というデータもあります。

年収1000万円でもぜいたくどころか、普通に暮らしていくのも厳しく、追い詰められていることをうかがわせます(日本生命「子育て現役世代の大規模実態調査」)。

実際の年収1000万円前後の世帯、とりわけ子育て世帯に関して言うと、高級マンションに住んで高級車を乗り回す余裕などほとんどないのが現実なのです。

ところで、裕福かどうかには収入ではなく資産を判断基準とすることもあります。金融広報中央委員会の調査データをみると、収入が多いほど資産も多いという傾向はあるものの、年収1000万円以上の世帯でも片働きでは15%以上、共働きでも約10%が「金融資産非保有」、つまり貯金がゼロとなっています。

こういった話題になるとしばしば、年収が高いのに資産ゼロなのは「ぜいたくな暮らしをしているせいだ」と指摘されます。しかし、前述の生活コストの変化や公的補助といった要因をふまえると、一概に自業自得と切り捨てられる問題ではないのではないでしょうか。

「HELP」と書いた紙を持つ子供
写真=iStock.com/freemixer
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家計を左右する保育料

共働き家庭には、家計を左右する要素の一つに保育料も挙げられます。

0歳から2歳までの認可保育園の保育料は所得が高いほど月額保育料が高くなっています。国の基準では年収1000~1200万円程度(住民税の所得割額が39万7000円以上)になると保育料の金額区分が最上位になり、第1子の場合で保育料は月額約10万円になります(実際の保育料は各市町村が定めていて、それほど高くはならない地域もある)。

保育料の区分は世帯合計の所得で判定されるので、夫婦共働きの会社員なら年収が夫600万円・妻500万円などでも区分が最上位になる可能性がありますが、高所得者の多い地域では所得区分を年収2000万円、3000万円などまで細かく設定して、保育料を段階的に高くしているところもあります。

また、年収1000万円が必ずしも保育料負担のボーダーラインになるわけでもありません。加えて第2子の保育料は半額、第3子以降は無料、そして3歳児以降の保育料や幼稚園代は原則として全員が無償化の対象です。

東京都では2023年10月以降、0~2歳の第2子の保育料を完全無償化するなど、自治体独自の上乗せ補助の動きもあります。これらの制度では現在のところ親の所得制限はありませんが、将来どうなるかはわかりません。

子育て時期には産休や育休を取ったり、時短勤務にしたり、フルタイムの仕事を辞めてパートに変わったりと、親の働き方や収入が大きく変わる可能性があります。およそ20年に及ぶ子育て期間中、ずっと世帯年収1000万円以上を維持し続けるのは簡単ではありません。