「指示待ち族」を生んでしまう

先ほど、「毎週、会議でどのように報告するかを検討するための会議を開いている」という大手出版社の事例を紹介しました。話をしてくれた営業担当者はさらに、地方へ出張する際には訪問先や目的、交渉内容などについて営業担当役員に報告し、追加の訪問先や交渉内容などについて指示を受けると教えてくれました。

「子どものお使いのような話でしょう? でもそれで終わりではないんです。出張から戻ったら訪問先や交渉の内容、結果について営業担当役員に報告しなければならないんです。箸の上げ下ろしまで指示されていると仕事の流れが遅くなるだけでなく、仕事自体がだんだん嫌になってきますね」

営業担当者が言うようにマイクロマネジメントは無駄で無意味な仕事を増やし、本来やるべき仕事の能率を下げ、社員のやる気を蝕んでいきます。マイクロマネジメントの弊害はそれだけではありません。社員の行動を監視し、箸の上げ下ろしにまで指示を出すような過剰な管理は、社員の自主性を損ない、受け身にしてしまいます。

上司から細かく指示を出され、干渉されていると、部下はどうしても上司の顔色を窺いながら仕事をするようになります。それどころかやがて自分で考えることをやめて、上司の指示を待つようになってしまいます。自分たちからはアイデアを出さない、動こうとしない、言われたことしかやらない、やるべきことがわかっていても指示を待つ。そんな自主性、主体性を欠いた指示待ち族の誕生です。

失敗はしないが成功もしない社員が増えるだけ

加えて上司の指示通りに仕事をしていると、大きな失敗を避けられるかもしれませんが、成功体験も得られないので、成長の機会を奪われてしまいます。自主性、主体性を欠いた指示待ち族は、独創的な機能や魅力的なデザイン、効果的なブランディングを生み出す社員とは正反対の存在です。指示待ち族の増加は日本企業の国際競争力をさらに損なってしまうでしょう。

渋谷和宏『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)
渋谷和宏『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)

この指摘に対して「経営陣や上司の指示が正しければ、指示待ち族でも独創的な機能や魅力的なデザイン、効果的なブランディングを打ち出せるのではないか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。経営陣や上司は、管理のための管理で日々忙しく、常日ごろから顧客や消費者に接しているわけではありません。彼らが顧客や消費者に接していたのは昔の話です。彼らが知っている顧客や消費者のニーズは過去のものです。このため彼らの指示は、今の顧客や消費者のニーズとずれてしまいがちです。

やる気と能力のある社員はそんな指示を出す経営陣や上司に反発するでしょう。しかし反発しているうちはまだましです。やがて反発する気力も薄れ、経営陣や上司の的外れな指示に唯々諾々と従い、当然の帰結として成果が上がらなくなってしまう。そんな事例は枚挙に暇がありません。

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