安易な贈与で結果追徴課税となるケースも
今後、相続税対策として、「暦年課税」と「相続時精算課税」のどちらを選ぶかは、それぞれご家庭の考え方によるでしょう。
暦年課税の場合は、親が保有する財産を年単位での時間をかけて少しずつ生前から贈与していくという方法です。贈与する子どもや孫の年齢制限はないので、長く継続的にできる対策ではあると思います。ただし、安易に生前贈与をしていると、多額の追徴課税が発生する可能性があるということも注意すべきポイントです。
実際にあったケースでは、家族には内緒で子ども名義の通帳を作成し、毎年100万円ずつ10年間、2人の子どもたちに生前贈与をしていた人がいました。その方は81才で亡くなり、相続人になった子どもたちが相続税の申告をしたところ、税務調査を受けて、「お父さまが行った生前贈与は贈与に実態がないため、生前贈与として認められません」と告げられたのです。最終的に追徴課税数百万円、さらにペナルティとして加算税と延滞税も課されました。
暦年課税を選ぶ際の注意点は、贈与者(親)と受贈者(子)の双方が合意した「贈与契約書」を作成すること。現金は直接手渡すのではなく銀行振込で行い、通帳は受贈者本人に管理させて、しっかり記録を残すことが大切です。
一方、相続時精算課税制度を利用する場合は、税務署に贈与税の申告をする必要があります。生前贈与の際には合計2500万円まで非課税になるので、購入や孫の教育資金など、まとまった金額を贈与したいというときによく使われます。ただし、これを選択する場合は、贈与者が60才以上、受贈者が18歳以上という条件があります。暦年課税と併用することはできず、一度選択したら変更することもできません。いずれの方法が家族にとって有利なのかということも含めて検討し、できるだけ早い時期から相続税対策をしていくことが望ましいでしょう。
相続問題というのは資産の金額にかかわらず、どんな家庭でも起こりうることです。親御さんは「うちは財産がないから大丈夫」と思っていても、例え数十万円であっても少しでも多くもらいたいという心理が働きます。さらに、古い持ち家などがあると、修理・取り壊しなどの費用負担が大きく、子どもたちは誰が相続するかでもめることもあります。
相続対策を考えるにあたり、まずやるべきことは資産の洗い出しをしっかり行うこと。現預金や生命保険、株、投資信託などの運用資産、不動産などです。そのうえで自分たちの家族にはどのくらい相続税がかかるのかを計算してみます。基本的には相続税がかかるボーダーラインは基礎控除の金額になります。一般の計算式では、(3000万円+600万円×法定相続人の数)ですね。
行き過ぎた相続税対策で裁判に発展も
さらに資産を整理すると、「えっ、こんなものもあったの?」と困るようなものが出てくることもあります。例えば、親がバブル期に別荘を買っていて、何十年も使われていなかったというケース。購入時は高額だったとしても、今では二束三文の状況になってしまい、買い手もつかなくて大変な思いをする方もいます。あとは実家の住居も子どもたちが住まないとしたら、相続しても固定資産税を払い続けるばかり。いわゆる負の遺産ですね。
そもそも不動産の相続評価額は、実際の市場価格より低く計算されます。そのため、かつては相続税対策として不動産投資をする傾向がありました。購入代金に占める建物比率の高い不動産が狙い目となり、その代表格が「タワーマンション」でした。
しかし、2009年に当時90歳の男性が10億円の融資を受けて、14億円でタワーマンションを2つ購入。その後の相続税申告では評価額3億3000万円と申告し、借入金は債務控除できるため、6億円の債務超過をつくり出して他の財産と相殺すると、「相続税ゼロ」として申告しました。この行き過ぎた節税に対して、最高裁判所が税務署の主張を認める判決を下したことから、「いよいよタワマン節税の封じ込めか」と話題となったのです。
相続税対策というと富裕層だけの世界と捉えられがちですが、少子高齢化も進む中ではそれぞれの家庭で直面する問題があると思います。それに備えるためには、やはり親御さんが元気なうちに話し合い、資産の洗い出しをすることがとても大事です。それまで円満だと思っていた家族でも、相続が発生するときょうだいでもめたり、決裂したりすることもあり得ます。自分たちだけは大丈夫とは、絶対に思わないでほしい。資産の有る無しにかかわらず、親子でちゃんと話し合いの場を持つことをお勧めします。