なぜ岸田内閣の支持率は低いのか。それは、旧統一教会をはじめとする自民党の暗部、すなわち安倍晋三元首相が遺した負の遺産に、岸田首相がメスを入れないからだ、と私は考える。

10月13日、文部科学省は旧統一教会への解散命令を東京地方裁判所に請求した。昨年11月の調査開始から既に1年近くも経過しており、「対応が遅すぎる」との声が相次いだ。仮に裁判所が旧統一教会に解散命令を出すとしても、その決定までには再度1年近くの日数を要する。しかもこの期間中、旧統一教会の支援を受けた議員の多くはいまだに説明責任を果たしていない。

また、旧統一教会問題のほかに、安倍元首相には三大疑惑「モリカケ桜」が常に付いて回った。戦前の「教育勅語」を暗唱させるなど、右翼色が強い学校法人森友学園に国有地を安く払い下げ、「お友達」の加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園グループに便宜を図って獣医学部新設を認め、新宿御苑の「桜を見る会」を私物化した。これらの疑惑は安倍元首相の生前に十分な検証がなされておらず、真相は不明のまま忘却の彼方に追いやられている。

岸田首相は、党内派閥である宏池こうち会の領袖りょうしゅうだ。思想的にはリベラル寄りで、保守色が強い清和せいわ会、つまり安倍派とは距離が遠い。本来であれば、岸田首相はモリカケ桜や旧統一教会の問題に、党内でもっとも切り込みやすいポジションにいるのだ。それにもかかわらず、これらの問題に及び腰のように見える。

7月に安倍元首相の一周忌は終わり、10月4日で岸田首相の就任から2年が経過したが、党内の「安倍的」な雰囲気はまったく変わっていない。国民から見ると、岸田首相は無色透明な存在であり、本人を積極的に嫌う人は少ない。しかし、自民党の汚点にケリをつけない態度こそが、自民党への不信感、ひいては岸田内閣の支持率低迷に繋がっているのだ。

安倍元首相は22年7月8日に銃撃されてこの世を去った。銃撃犯の山上徹也被告は、母親が信仰する旧統一教会の宗教2世で、教会に恨みを募らせた末に事件を起こした。そしてこの日を境に、安倍元首相の祖父、岸信介元首相の代から連綿と続く自民党と旧統一教会との癒着が明らかになっていく。

韓国で創設された旧統一教会が日本に支部を置き、宗教法人として認可されたのは1964年。岸元首相は、旧統一教会系の政治団体「国際勝共連合」の発起人にも名を連ねている。

旧統一教会は反共の旗印を掲げ、自民党議員に対して積極的にアプローチを重ねて緊密な関係を構築してきた。議員は、落選すればただの人である。選挙戦が何よりも大事で、人海戦術でサポートしてくれる旧統一教会には頭が上がらない。安倍元首相が党内で強い力を持っていたのも、旧統一教会の実質的な日本支部長として運動員を差配できたからだった。

そして、自民党議員が旧統一教会の信者から選挙応援を受ける代わりに、その犯罪的なまでの布教活動を黙って見過ごすトレードオフの関係が成立していたのだ。

握手
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旧統一教会が日本で布教するのは、日本からお金をむしり取り、日本人女性を韓国につれていって信者(結婚相手を見つけられない韓国人男性)と結婚させるためだ。アジアで地位が低下していた日本を外交で素通りする「ジャパン・パッシング」は90年代頃から起こっていたが、旧統一教会は60年代から一貫して「ジャパン・サッキング」を推し進めていた。植民地支配された恨みを、日本からお金と女性を吸いあげることで晴らそうという趣旨だ。

旧統一教会の教義は韓国社会の伝統を色濃く反映している。韓国は父系優先を重んじており、ジェンダーギャップ指数では、日本と同様に先進国で最下位グループにある。自民党の政策には、支持団体である旧統一教会などの宗教団体の教義が影響を及ぼす。旧統一教会の父系優先の思想に、保守政党である自民党の従来の性格が相まった結果、夫婦別姓や移民の議論が一向に進展を見せない。そしてこれこそが、今日に至る日本の生産力低迷の原因にほかならないのである。

日本をおとしめる安倍派とは決別を

日本が名目GDPを向上させていくには、2つの段階を踏む必要がある。

まずは、岸田首相が党内の問題を含め、改めて旧統一教会問題に根本からケリをつけることだ。