血圧が高いとよくない理由
健康について話すとき、血圧はよく話題にあがります。高血圧の患者数が多いため、血糖値やコレステロール値と比べて気軽に測定できるためでしょう。ただ、高血圧とはどういうことなのか、なぜ高血圧がいけないのかまでは、あまりよく知られていないようです。
高血圧とは、血管にかかる圧力「血圧」が高いこと。より正確には「動脈血圧」が高いことです。血管には、血液を心臓から体のすみずみまで運ぶ動脈と、血液を体から心臓に戻す静脈とがあります。病気によっては静脈圧が問題になることもありますが、単に血圧といったときは動脈血圧のことを指します。全身に血液を送るため心臓は1分間に何十回と縮んだり広がったります。心臓が縮む(収縮する)と血圧が上がり、血管が広がる(拡張する)と血圧は下がります。心臓から血液が送られるたびに血圧は上がったり下がったりし、高いほうの血圧を「収縮期血圧」、低いほうの血圧を「拡張期血圧」といいます。
そして高血圧は、心疾患をはじめとした病気をもたらします。なぜ心疾患をもたらすのかを簡単に説明すると、血管に高い圧力がかかる状態が長く続くと徐々にダメージが蓄積して硬くなります。そして硬くなった血管は、詰まったり破れやすくなったりするため。高血圧による代表的な心疾患は、心臓に酸素を供給する冠動脈が詰まって起きる「心筋梗塞」です。動脈は全身にありますから、高血圧は心疾患だけでなく、脳血管疾患や腎障害や眼底出血など、さまざまな病気のリスクを高めます。
ルーズベルト元大統領と高血圧
さて、高血圧がよくないと明確に証明されたのは、第2次世界大戦後のことです。第2次世界大戦当時のアメリカ合衆国大統領のフランクリン・ルーズベルトは脳出血で亡くなる数年前から180mmHgを超える高血圧で、死亡直前の血圧は300mmHgを超えていましたが、血圧を下げる治療はほとんど行われていませんでした。大国の大統領ですら、高血圧は治療されずに放置されていたのです。
当時でも、心疾患患者に高血圧が多いことは気づかれていましたが、それだけでは高血圧が心疾患の原因だとは限りません。逆に心疾患が高血圧の原因――つまり心臓が悪いからこそ心臓が頑張って全身に血圧を送ろうとしていて血圧が高くなっているのかもしれないからです。
高血圧が心疾患の原因であることを証明するには、研究開始時点では心疾患がない人をたくさん集めて長期間追跡調査する必要があります。第2次世界大戦後の1950年代になって、血圧が高い人はそうではない人と比べて心疾患を発症しやすいことが示されました(※1)。その後、1960年代になると、高血圧に対する降圧治療の効果が実証され始めました。高血圧患者をランダムに2つのグループに分け、一方のグループに降圧薬を投与し、もう一方のグループを対照群として比較したところ、降圧薬を内服した群のほうが死亡や血管系疾患の発症が少なかったのです(※2)。
※1 The Framingham Heart Study and the epidemiology of cardiovascular disease: a historical perspective
※2 Effects of treatment on morbidity in hypertension. Results in patients with diastolic blood pressures averaging 115 through 129 mm Hg