高血圧に対する標準治療とは

高血圧の多くは症状がありません。それまでの医学は痛みなどの症状が起きてから治療するのが普通でしたが、症状がないうちから治療することで将来の大きな病気を予防するという考え方が生まれました。高血圧だけでなく、糖尿病や脂質異常症といった無症状の状態に対する治療が一般的になる契機となったのです。現在までに多くの研究が行われ、こうした病気についてさまざまなことがわかってきました。研究の進歩によって多くの人が心疾患や脳血管疾患にかからずに済んだことでしょう。

高血圧に対する標準治療は、まずは生活習慣の改善です。具体的には減塩を中心とした食事療法、運動、アルコール制限、適正体重の維持、禁煙などです。これらの個別の対策は単体では効果は小さいですが、組み合わせることでそれなりの成果が期待できますし、高血圧だけではなく他の疾患の予防にもなります。すでに降圧薬を飲んでいる人でも、これらの生活習慣の改善は有用です。

しかし、生活習慣改善を完璧に行うのは難しいですし、どんなに生活習慣改善を頑張っても血圧が下がらない人もいます。生活習慣改善だけで十分な降圧が得られなかったり、医師が速やかに降圧したほうがいいと判断したときには降圧薬が処方されることに。かくいう私自身も40歳以降に血圧が高くなり、10年以上も降圧薬を内服しています。降圧薬の種類はさまざまで、特徴に応じて使い分けます。詳しいことは主治医と相談してみてください。

公園でランニング中の男性
写真=iStock.com/west
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迷信やデマが多いので要注意

ところで高血圧については、さまざまな迷信やデマが飛び交っているので注意が必要です。たまに「医者は金儲けのために安易に降圧薬を処方している」という声を聞きますが、多くの医師は薬に頼らず生活習慣の改善によって血圧を下げてほしいと願っています。しかも、薬を処方しても医師の儲けにはなりません。「降圧薬を飲み始めると一生飲み続けなければならない」という誤解もみられますが、食事療法や肥満解消がきっかけで血圧が下がり、降圧薬を減量または中止できる例もあります。

こうしたデマを広めるのは一般の人とは限りません。医師が書いた「今は血圧が200mmHg以上でもまず血管が破れることはない」「私自身が血圧200mmHgを数年間放っておいたが平気だった」などといった記事は、間違っているだけでなく危険なのにもかかわらず大人気です。血圧が高くて心配な読者が安心できるためでしょう。また、正常血圧についての誤解もよく見かけます。血圧は年齢とともに上昇するため、収縮期血圧の正常値が「年齢+90」とされていた時代がありました。この基準だと、60歳の正常収縮期血圧は150mmHg、80歳では170mmHgです。高すぎますね。その後、高齢者も降圧治療をしたほうが予後がよいという複数の研究結果を反映し、正常値は現在のように改定されました。