「明日の練習に行きたくない……」

自分の理想と現実がかけ離れているのを痛感し、自問自答、後悔、情けなさ、たくさんのマイナス思考に支配されました。そうやって考えてばかりいると、体力的には疲れていないのに精神的にすごく疲れてきます。宿舎に帰って「英語を少しでも勉強しなければ!」と思っても、球場でのストレスから解放された状況では何もやる気が起きませんでした。妥協の連続で何も勉強もできず、これがまた自分のマイナス思考に拍車をかけ、どんどん自己嫌悪に陥ってしまいました。

一番辛かったとき、宿舎の中でふと、こんな言葉が頭をよぎりました。

「明日の練習に行きたくない……」

この瞬間、本当に涙が出そうになりました。自分の覚悟はその程度だったのか。これだけ多くのものを犠牲にして自分の夢を追いかけてきた中で、「行きたくない」なんて思うようになることを想像できなかったのです。もう情けなくてしょうがない。いままでギリギリの線で持ちこたえていたつもりだったけれど、どん底まで落ちました……。

アーリントンのレンジャーズ・ボールパーク
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私が行ったマインドセット

けれど、そこまで落ち込んでしまったのと同時に、何かが吹っ切れました。僕はホークスでは投手コーチを統括する立場でした。それがアメリカでは研修生扱いです。いわゆるトップの立場から見習いの立場になることなんて、職業を変えない限りはまずあり得ないということに気づいたのです。

「これは逆にすごいことやないんか? 将来の自分にとって本当に貴重な経験でもあるはず! これを乗り越えたらすごいことや。これは絶対に大きな財産になるぞ!」

そう考えたときに、こんな経験ができているのは「日本人の中でも僕だけ」なのだと、特別感が湧いてきて、これが本当に大きな勇気となりました。

「楽しいこと、辛いこと、いろいろな感情も含めてすべてが今後に繋がる経験ということ」
「よーし! まずは気づいたことを何でもやっていこう。すべてやろうと思わず、1つひとつ、少しでもいいから努力することから始めよう!」
「球場では雑用でも何でも、手伝えることはいままで以上に率先してやっていこう!」
「とにかく少しでもいいから。一歩だけでもいいから踏み出すんや!」

そんなエネルギーが湧いてきたのです。僕はこれまで、講演などを通してたくさんの方々に何度も話をしてきました。ときには子どもから大人まで、気持ちが奮い立つような話もしてきたつもりです。

「自分が人前で話してきた言葉をそのまま自分に向けよう」
「もう一度自分で身をもって実践していくときがいまなんや!」

そう思えるようになると、落ち込んでいる自分、情けない自分に腹が立ってきました。そしていまの弱い自分も素直に受け入れることができて、自分を奮い立たせる感情が湧いてきたのです。