後片付けをしたくなる「ありがとうシール」

3)相手が片づけない時には:ありがとうシール

病院の手術室では、医師が使用済みの針を置きっぱなしにしたため、器材を片づける看護師に針が刺さる事故が起きることがあります。メインの仕事が完了して安心すると、その続きの用事を忘れてしまう習性(完了バイアス)が生じ、医師は後片づけを忘れてしまったようです。これに対して、ナッジを用いた張り紙によって使用済み針の適正処理が進んだ事例を紹介します。

ナッジ● 慶應義塾大学病院(東京都新宿区)では、使用済み針を適切に処理してくれた医師に対して看護師が「ありがとうシール」を壁に掲示しました(図表1)。
【図表1】ありがとうシール
ありがとうシール(出所=『心のゾウを動かす方法』)

ありがとうシール制度を開始した後、使用済み針の処理状況が劇的に改善しました。一度「ありがとう」と言われたからには、「次もきちんと後片づけしてお返ししたい」という気持ちが起きやすくなります(返報性ナッジ)。

また、ありがとうシールをもらえなかった医師は、「次回こそは」という気持ちが起きたと推測されます。看護師も医師に対して後片づけについての苦言を呈するのは嫌なものです。これは職場の雰囲気を悪化させずに後片づけに成功させた好事例です。

男性用小便器の「マト」はゲーム化ナッジ

4)トイレの汚れ防止には:他人の視線

飲食店ではどんなに店内の清掃が行き届いていても、直前に使った誰かがトイレを汚してしまえば、次に使った人は「不潔な店だ」という印象を持ってしまいます。これに対し、男性用小便器に「マト」のシールを貼ったり(ゲーム化ナッジ)、「一歩前進」と明確な行動指示を書いたり(簡素化ナッジ)、「きれいに使ってくれてありがとう」と書いたり(返報性ナッジ)といった手法が使われてきました。

中でも、青森県七戸町にある「まきば寿司」のトイレの張り紙は秀逸です。