38歳の大抜擢を引き寄せた「偶然の必然」
偶然の重要性は、イーロン・マスクのような著名人に限りません。
IT企業で38歳にして執行役員に抜擢され、社の未来を担う重要プロジェクトを任された人物がいます。彼は、「自分のキャリアはセレンディピティによるものだった」と振り返ります。
抜擢のきっかけは、別部門の部長の推薦でした。部長は、彼が部門の壁を越えて多くのメンバーを巻き込み、苦労しながらも事業を推進させていく様子を何度も見ていたため、「彼ならば」と推薦したのです。
しかし、一部長の推薦があれば抜擢されるわけではありません。一若手社員でしかなかった彼に重要プロジェクトを任せると会社が最終的に判断したのは、それまでの彼の積み重ね(実績)と、周囲の信頼を得ていたことが認められたからでした。
この例からもわかるように、突然やってくる「セレンディピティ」とは、単なる偶然のことではありません。日々の努力と信頼の積み重ねが生む「偶然の必然」なのです。
事実、IT企業の執行役員になった彼は、「セレンディピティ」を引き寄せるため、意識的に自らの行動量を増やし、他人との接触機会を積極的に作ることを心がけていたといいます。
オンラインセミナーへの参加、社内懇親会での積極的なコミュニケーションなど、主体的な行動を通じて周囲の人々との関わりを深めることで、新たな機会や情報を引き寄せたのです。
29歳トップセールス女性の「成果の秘密」
いま見たエピソードは、「セレンディピティ」を自分自身のキャリア形成に活かすためには、日々の行動の質と量、そして他人との関わりを大切にするのが重要であることを私たちに教えてくれます。偶然を生み出す行動を自ら選び取るという意識的な行為であり、その結果として偶然が必然に変わる可能性が生まれるのです。
29歳で突如としてトップセールスに躍り出た女性社員は、まさにこの「セレンディピティ」をうまく使って成果を出していました。
彼女が所属する会社の社長が、趣味の釣り仲間の紹介で大型案件を持ってきました。社長自らが直接個々の案件をフォローすることは稀で、たいていは営業担当役員に任されます。その役員は、さらなる成長を期待して若手社員を大切な商談に抜擢することがあります。
大切な商談とはいえリスクも伴います。しかし、抜擢される若手社員はそれまでに信頼を積み重ねてきた人物で、その信頼こそがセレンディピティを引き寄せる鍵となっていました。
問題は、誰に任せるか――でした。