意識を共有するための「小さな行動」
ここでまず重要なのは、経営者が先頭に立ち、理屈ではなく意識を共有することです。
私は、コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方で成り立っていると考えています。
たとえば、「コピーを100枚取ってほしい」というのは「意味」を伝えていますが、皆さんにも経験があるように、同じことでも好きな上司にいわれたら喜んでやりたいけれども、嫌な上司にいわれたらあまりやりたくないというのがありますね。これは「意味」の問題ではなく、「意識」の問題だからです。
いかに会社の指揮系統がしっかりしていたとしても、従業員全員が同じ方向を向いていなければ意味はありません。先行きが見通せない時代、変化に柔軟に対応するには、経営者が先頭に立って、まずは足元を固めなければなりません。そのためには「意識」の共通化が必要なのです。
それでは、社員の意識を一つにするうえで、具体的に必要なことは何か。
私は「小さな行動」を繰り返し行なうことが重要だと考えています。意識を変える、意識を共通化する第一歩は、意識教育ではなく、「行動」です。まず体を動かすのです。空手や柔道、あるいは華道や茶道などの「○○道」は、必ず「形」すなわち「行動」から入ります。われわれ凡人は、同じ行動を何千回、何万回と繰り返し行なうことで、その心や意識を理解することができるのです。
朝の掃除が「思考力」と「実行力」を鍛える
ここで提案したいのが、たとえば朝の掃除です。
私が代表を務める会社では、出社している社員で毎朝9時から事務所の掃除をしています。私も男性トイレなどの掃除をしています。掃除の後には9時15分から朝礼を行っています。その日の当番の社員が会社のミッションやビジョンを読み上げ、一人ひとりがその日の予定を発表します。当然、コロナ禍以降は、オンラインでの参加も認めています。
人間とは易きに流れる生き物なので、放っておくと自分勝手に動きます。しかし、とくに人数がさほど多くない中小企業は、一人ひとりの力や考えをいかに共有して、存分に発揮させられるかが焦点になります。だからこそ、掃除は一例に過ぎませんが、あいさつなどの小さな行動を皆で行ないながら小さなコミュニケーションを重ねることが大切です。そして、それがやがて社風を生み出すのです。
なお、正直にいえば、私の会社でもそうした社風が自分に合わないといって採用後すぐに辞めた人間もいます。ただし極論をいえば、それは仕方ありません。互いにしんどいと感じることをやり続けて、後でトラブルが起こるほうがまずいのです。
もちろん、掃除を例に挙げたことには大きな意味があります。
ビジネスパーソンは基礎力を磨き続けるべきです。基礎力とは、先にも述べたように、私は「思考力」と「実行力」だと考えています。この実行力の大切さを知るうえで、掃除はじつに有効です。いくら理屈を並べても、手を動かして机を磨かなければ綺麗にならないのですから。
もう一つ、これはイエローハットの創業者である鍵山秀三郎さんも語っておられることですが、毎日のようにきちんと掃除を続けると、自然と気づきを得るものです。これが「思考力」を養います。こうした習慣を重ねれば、上司が指示しなくても「自分は何をすべきか」を考えて自ら動く社員が増えるはずです。
いずれにしても「行動」です。