感想やお礼で締め、同調を促す
人が「最後」に感じたことをよく記憶する仕組みを「ピーク・エンドの法則」といいます。「よかった」「悪かった」の記憶は、ピーク(絶頂)のときの感情と、終わり方でほぼ決まるという法則で、行動経済学者ダニエル・カーネマン(1999)が提唱したものです。
つまり、交渉の最後にピークとなる話題を持ってきたほうが、次回まで自分のことや話の内容を強く覚えておいてもらうことができるのです。
ですから、自分が話す話題のピークはどこなのかをあらかじめ把握し、中盤ではなく終盤に持ってくるように事前に話を組み立てておきましょう。
とはいえ、交渉の最後にピークを持ってくるには訓練が必要です。そこで習得のコツとして、交渉の盛り上がりを最後に持ってこられなかったときの対処法を解説します。場数を踏んで経験値を上げましょう。
ポイントは、感想やお礼で締めること。
「今日はいいお話ができて楽しかったです。ありがとうございました!」
「すごく質の高いディスカッションができました。本当に感謝です」
あるいは、もっとダイレクトに同調を促しても効果的です。
「今日は本当に楽しかったですね」
「今回の議論は白熱しましたね」
好印象を残して、次のデートにつなげたいときにも活用できます。
「最後にこんなこというのもあれなんですけど、○○さん(デート相手)と一緒にいると時間があっという間に過ぎますね。また遊びに行きましょう」
このような声かけをしていくと、相手も「確かにそうだな」と思ったり、その同調した気持ちを口に出したりします。相手に「最後、楽しかった」と半ば強引にでも思わせることが大切です。
また、共感できるような話を最後に入れるのも効果的。たとえば、「実は私も○○さん(交渉相手)と同じ趣味を持っているんですよ」と伝えると、相手が親近感を持った状態でやりとりを終えることができます。
相手が恐縮するくらい深々とお辞儀を
ピーク・エンドの法則を用いるときに注意したいのが、締めの話題選びです。せっかく持ってきた最後の話題が相手にとって的外れだと、その印象が強く残ってしまいます。
つまり、締めの話題の盛り上がり次第では、その日の交渉内容をうしろ向きで捉えられてしまったり、最悪の場合、「もう会いたくない」と思われてしまったりするのです。
ただ、これは裏を返すと、多少失敗しても最後に挽回は可能だということ。交渉の中盤で相手の機嫌を損ねてしまうような地雷を踏んでしまったとしても、去り際に相手の「快」の感情を刺激するようなコメントを伝えることで好印象を残すことができます。
また、去り際のコメントがうまくいかなかったとしても、リカバリーする方法があります。まず、相手が恐縮するくらい深々とお辞儀をしてお見送りをしましょう。
その後、すぐさまメールや電話を入れるのです。そこで、コンパクトかつピークを演出するような話題を盛り込みます。
すると、いい形で「最後」を終えることができるのです。
ピーク・エンドの法則から身を守るには、最後の相手の言葉や話題だけで、交渉内容の判断やその後の意思決定をしないことです。序盤から中盤での話の内容も含めて交渉全体をしっかりと振り返り、吟味をくり返したうえで決断する習慣をつけましょう。
なお、交渉の中盤で相手がさらっと流していたようなことや、部分的にはぐらかしていると感じたところがあれば、後日、しっかりと追及するようにしましょう。去り際でごまかされないことが肝要です。
・交渉の最後にピークとなる話題を持ってくることで、次回までに自分のことやその内容を強く覚えておいてもらうことができる