「悪口メール」は送らない。これは小学生のとき、マーク・トウェインに教わったことだ。彼は、読者からの手紙に1通ずつ返事を書いていた。悪口が書かれた手紙にはきっちり反論の返事を出していたが、トラブルはひとつもなかった。なぜなら彼の奥さんが手紙を投函する前にすべてチェックし、相手が読んで気分が悪くなりそうなものは黙って捨てていたのである。

悪口を相手にぶつけるのは無意味な行為だ。ほとんどの悪口は、書いた瞬間に満足している。だから私はメールではなくメモ帳を開いて、「テメー、コノー」と悪口を書く。それをすべて破棄してからメールを開き、「では、また今度に」、あるいは「ちょっとお会いして話しましょうか」と書いて送る。相手に伝えるべきは、次に何をするかということだけだ。出さない手紙を書くのは、前に進むために、いったん自分の気持ちの整理をつけるためである。できる人はサラッとやり過ごせるのだろうが、私は未熟なので湧き上がった感情を無視できない。そんな私には、この方法はなかなか実践的なソリューションなのである。

仕事は「初動」と「プロセス」と「結果」の3段階に分けられるが、できる人は、どの段階においても連絡義務を怠らない。回答に時間がかかる場合は、「いついつまでに返事します」と連絡する。仕事は共同作業という意識を持っているからこそ、相手に不安を与えない仕事運びを心掛ける。

この意識があるかないかで、クレームやトラブルの発生件数に大きな差が出る。たとえ問題が生じたとしても、ただちに上司やクレーム相手とコミュニケーションをとり問題が解決するまで進捗報告を欠かさない。これに対し、残念なビジネスマンは、上司に発覚する前に自分で何とか解決しようとして問題を大きくしてしまう。クレーム相手への連絡は、対応策が確定してからでよいと思っている。結果は推して知るべしだ。お詫びの言葉ですんだはずのクレームが、会社全体の問題にまで発展する多くの原因は、こうした残念なビジネスマンによる初動の遅れ、後手に回る対応によるものだ。

よいプロジェクトは、よくできた料理本に似ている。料理本のレシピには、仕上がり写真、材料と分量、調理時間が必ず明記されている。同様に、よいプロジェクトには、明確なゴールイメージ、スケジュール、担当する人数と役割、必要な工程、進め方、納期が決まっており、メンバー全員が意識を共有している。

「お湯を適量入れていただいて、適切な材料を切って投入し、様々なスパイスを少々混ぜ合わせ、頃合いを見計らってお召し上がりください」。そんな漠然としたレシピで、おいしい料理が出来上がることはまずない。しかしビジネスとなると、曖昧な指示を漠然と受けて仕事が進んでいく場合が少なくないのである。そのような仕事の進め方で、よい成果が出たら奇跡だ。仕事を頼んだ上司の思惑とはまるでかけ離れた代物が出来上がってくる、ということはよくある。

仕事を頼まれたときに、「わかりました」と言って受けるのは不十分である。「期限はいつですか?」「目標数はいくつですか?」「アウトプットのイメージは?」と、仕事にとりかかる前に、発注者とゴール地点を確認し、合意しておくべきである。

料理なら、おいしいかおいしくないか、結果は明確だ。順序や材料や調理時間を間違えると、焦げ付いたり、生煮えだったり、まずい物が出来上がるが、仕事も同じ。焦げた仕事とならないよう、最初に仕上がりのイメージを確認し、段取りと、それぞれの作業にどのくらい時間がかかるのかを理解しておく必要がある。レシピ通りにつくって料理が失敗することはない。まずレシピ通りにつくる。そこから調味料を足したり、材料を変えたりして、オリジナリティをプラスしていく。

頭のよい人は料理がうまいと言われる通り、おいしい料理とは戦略思考の賜なのである。

日本の労働分配率は世界一高い。経営効率を考えれば、これ以上従業員を増やしたり、給料を上げたりすることはできない。IT化が進み、人間の仕事と給料を機械やコンピュータが奪っていく。上司は部下に向かい、「おまえにしかできない仕事をしろ」「自分の個性を活かせ」と言う。だが一方で、誰が辞めても困らないように仕組みをつくり、標準化したい。この「おまえにしかできない仕事」と「誰が辞めても困らない仕組み」が、スパイラル的に進化していくのが理想だ。裏を返せば、企業で生き残っていくためには生産性の高い人間になると同時に、属人的にならないようにすることを真剣に考えていなければならない。

あなたに特別な能力があっても慢心はできない。自分が、ここに挙げたような残念な人ではないか、ぜひ一度、足元を見つめ直していただきたい。

(構成=野崎稚恵 撮影=芳地博之)
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