ここでの引き出し方は、毎年100万円という「定額引き出し」です。

定額引き出しは、資産を運用しているときにはその収益率の並び方によって、とくに運用しながら資産を引き出し始めた当初に元本が思った以上に毀損してしまうリスクを内包しています。

そして、退職後直後から10年、15年、20年といった長い期間になると、資産に致命的な影響を与えかねないのです。私はこれを「収益率配列のリスク」と呼んでいます。

最晩年に計画通りの資産を残せないとなれば…

少し先のことを考えてみてください。

野尻哲史『60代からの資産「使い切り」法』(日本経済新聞出版)
野尻哲史『60代からの資産「使い切り」法』(日本経済新聞出版)

現在は問題ないとしても、たとえば80代にもなれば、今と同じように運用を続けていられる人は多くはないでしょう。それどころか、日々の生活を人に頼ることになっている可能性もあります。

その段階では、その後の生活年数と1年間の必要な資金を基に計算して、必要となる資産を残しておきたいものです。

たとえば、年金以外に月10万円ずつ生活費の上乗せが必要だと思えば、年間120万円。それを80歳から100歳まで必要と考えれば20年間、合計で2400万円の資産を残しておきたいということになります。

繰り返しますが、退職する段階で想定通りの資産があって、余裕の生活を送れると思っていても、「定額引き出し」をしていると、運用環境の違いから80歳の時点で必要な資産額を残せなくなるかもしれないのです。

引き出しを「額」で考える難しさ

そこでゴール時点、ここでは仮に80歳としますが、この時点で計画通りの資産を残すための方策を考えます。

定額引き出しの課題は、引き出す額を定額にしておきながら、資産は運用によって変動することにあります。

単純にいえば、「運用収益率は3%で引き出しは400万円の場合、その年の資産残高は増えますか?」と聞かれて、答えが出せないところに定額引き出しの課題があるのです。

資産の増減は運用の成果と引き出し額の差額でみるわけですが、一方が「率」で表示され、もう一方が「額」で表示されていては、どちらが大きいかわかりません。