日本酒で鏡開き、シャンパンタワーのセレモニー…
それにしても、クルーズなんて正直歩けなくなったジジババが行くものと思っていた私の考えは乗船後、180度変わることとなる。巨大な街のような客船をあちこち周り満喫するには、身も心も胃も頭も若くないと100%楽しめない。
もちろんのんびりと部屋から出ずに海を眺め読書をし、港についても船から降りないで過ごすこともできるけれど、アクティブに、全部楽しもうとなると、年を取ってからなんていう考えは捨ててまずは行ってみることを勧める。上級者はきっとジタバタしないのだろうけれど。
若いうちに行くべしと言うのは、10年前とは違い、アプリでレストランや、参加するアクティビティの予約などをしなければならず、初めてのシニアたちにはやや苦労だと感じるだろうからだ。
お客様を楽しませるために、さまざまなイベントが時間刻みで、いろんなところで開催されているので、とりあえず予約してみる。でも、シャンパンを飲んでいたら、あっという間に、時間は過ぎていってしまった。ウェルカムパーティに始まり、日本酒で鏡開き、シャンパンタワーのセレモニー、ダンスパーティ……とにかく盛りだくさんだ。夜遅くまでイベントが続き、まるで眠らない街のよう。
それにしても朝からみんなよく飲む、食べる。ずっと飲んでいる。誘ってくれたマダムは、帰国後体重計に乗ったら、驚くことに4キロ増えていたそうだ。夫は1.5キロ増。ちなみに私は、ドレスを素敵に着るために必死に5.5キロダイエットしてから参加したが、0.5キロ増にとどめることができた。ふう。
年齢層は、10年前はシニアが多かったそうだが、若年齢化してきているような気もする。若いカップルや家族も見かけた。
そういえば、航海2日目にコロナ禍にあのDP号に乗っていた70代男性に遭遇した。その日の朝早く、デッキを歩いていたら、その杖をついた男性に声をかけられたのだ。聞けば70半ばだという。
「もう20回は乗っていて、あのコロナ発症の時も乗っていたんです。同室の友達はコロナになって地方の隔離へ移送され大変でした」
濃厚接触者になった男性は25日間くらい船に閉じこめれらたそうだ。まだ船の中で規制がされていなかった時に、船内で知り合った人がその後、コロナになって亡くなったとも言っていた。
「私はダブル濃厚接触者になったけれど、幸いコロナには罹患しなかったんですよ。ただ、船内には、もう生きていけないと海へ身投げしようとした女性もいたのですが、クルーにギリギリ止められてね」
下船後は、今度は埼玉まで連れて行かれてそこで20日以上滞在。その後、自宅待機を余儀なくされたという。「当時はコロナの正体がよくわからなかったので、まるで犯罪者扱いでしたよ」。
孫は保育園に登園禁止。同居していた息子も出勤停止。妻の元に友達から電話がかかり、夫がコロナの濃厚接触者だとわかると、電話を無言で切られたという。「おかげで本当の友達が誰かわかってよかったわ」と後で妻に言われたという。
次に、この男性が船に戻った時はクルーズ仲間6人のうち、自分以外は全員引っ越しをしたと聞いたそうだ。風評被害はあまりにもひどかったと振り返る。そんなコロナ発症のDP号だが、今は何事もなかったように、大海原をゆく。それでも「今回も、誰にも言わないで来ているんですよ」と話す男性はこんな裏話も教えてくれた。
「長く乗っているとね、窓のない部屋を申し込んでいても、自然と部屋のアップグレードをされることがあるんです。冷蔵庫にドリンクがたくさん入っていたり、扱いが難しい服でもクリーニング無料になることも。今年はDP号日本就航10周年だったということで、6月くらいまでは船内で半額セールもやっていて、それで今回来ている人も多い。中には、5万円以下で乗っている人もたくさんいますよ」
今後もそのような特典がつくかどうかは不明だが、常連客になればいいことは多そうだ。