「ナチス式敬礼は禁忌」と子供も知っている

また右手を斜め前方に挙げる挙手はナチス式敬礼として禁止されています。授業中に挙手するときは、右手の人差し指を垂直に立てるのです。

私たちはタクシーを呼び止めるときに右手を斜めに挙げることが多いと思いますが、これもドイツでは禁忌。右手を真横に出して車を止めるのです。

さらにドイツ国内で歩道を歩いていると、「躓きの石」を見つけることもあります。歩道に、目の前の家に住んでいたユダヤ人の名前や生年、殺された場所などが刻まれているのです。歩いていると躓きかねないような形に埋め込まれ、ナチスの蛮行を忘れないようにしているのです。

「躓きの石」
写真=iStock.com/Fortgens Photography
※写真はイメージです

ヨーロッパを目指した大量のシリア難民

そんなドイツを2015年、「欧州難民危機」が襲います。2011年末から始まったアラブ諸国の民主化運動は「アラブの春」と呼ばれました。

独裁政権が続いていたアラブ諸国で民主化運動が活発になります。チュニジアのように独裁者が逃亡して民主的な選挙が実施され、とりあえず落ち着いた状態になった国がある一方で、シリアの場合は独裁を続けてきたアサド政権と反政府勢力が内戦状態となります。このため多くのシリア人が国を出て難民となりました。

彼らの多くは、いったんは近隣のヨルダンやトルコに逃げ込み、難民キャンプで生活しますが、やがてヨーロッパを目指して動き出します。2015年9月になって、多くの難民が北を目指しました。まるで「アラブ民族大移動」の様相を呈したのです。

小舟で地中海を渡ってギリシャやイタリアに逃げ込む難民は、さらに陸路ドイツに向かいます。バルカン半島の陸路を選択し、ハンガリーを経由してオーストリアからドイツを目指した難民たちもいました。彼らは、ドイツが難民を迎え入れ、手厚く保護してくれることを、先に逃げ込んだ人たちからのSNSを通じて知っていたからです。

EUのルールでは、難民申請の希望者は、最初に入国した国で手続きをすることになっているため、ギリシャやイタリア、ハンガリーなどEUの外部と国境を接する国に難民が殺到し、負担が増えます。各国とも難民受け入れに消極的になり、押し寄せる難民の波は大きな国際問題となりました。