101歳の元ナチス親衛隊は禁錮5年に

ドイツ政府は戦時中のナチスの犯罪については時効をなくし、専門に捜査する部局を設置しています。

その徹底ぶりの象徴が、2022年6月に判決が言い渡された裁判です。ベルリン近郊の裁判所で、地元に暮らす101歳の男に禁錮5年の判決が下りました。罪状は3500人の殺人ほう助です。男は第二次世界大戦下の約80年前、ナチス親衛隊の下級隊員で、ユダヤ人が虐殺された強制収容所の看守でした。

アウシュビッツ強制収容所
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戦後は家族にも過去を語らず平穏な人生を送ってきましたが、ついに追跡の手が伸びて逮捕されたのです。被告は車椅子で出頭しました。たとえ100歳を超えても責任は追及する。これがドイツなのです。

また同年10月には強制収容所の司令官の秘書だった当時18歳で97歳になっていた女性にも有罪判決が言い渡されています。彼女は速記のタイピストだったのですが、ナチスの犯罪に関与した責任が問われたのです。

ホロコースト否定は言論の自由にあらず

そんなドイツでも、戦後しばらくすると「ナチスによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)はなかった」とする言説が出現します。

これに対しドイツ政府は、こうした言説を違法とする法律を制定します。

「ホロコーストはなかった」「アウシュビッツにガス室はなかった」などの発言は言論の自由には当たらない、これは虚言である、というわけです。これが刑法130条3項です。

この法律は「ホロコーストの矮小わいしょう化・否定を行う関係者すべてに適用される。たとえば、ホロコーストの特定局面を否定したり、矮小化するような内容の本を作成し、印刷し、流通させた者たちがいると、その著者もしくは翻訳者のみならず、編者、出版社、書店、さらにはその本を二冊以上所持している者すべてが処罰される」(『〈和解〉のリアルポリティクス』)のです。

学校教育でもドイツの過去について徹底的に学びます。ナチスが政権を取り、ユダヤ人を迫害し、第二次世界大戦を引き起こした歴史について、高校の授業では一カ月をかけて学びます。さらにドイツ国内に残る強制収容所の跡地を訪問することになっています。