うま味調味料と酸味は親和性がある
日本でも、酢の物に味の素をかけると美味しくなるといわれており、うま味調味料と酸味は親和性がある。
「エクスキューズ・ミー、プリーズ・トライ・アジノモト・フォー・ユア・ラッサム(ちょっと、ラッサムに味の素を入れてみてくれる?)」
濵野は、インド人スタッフに、味の素の小袋を渡した。
「ミスター・ハマノ、ディス・イズ・デリシャス!」
2人のインド人は、味の素を入れたラッサムを飲み、目を丸くした。
2人はすぐご飯の上にラッサムをかけ、美味そうに食べ始めた。ご飯をかきまぜる右手の動きが、普段より軽やかに見える。
「このメニューだ!」大喜びで飲み明かした
濵野はチェンナイに戻ると、早速、宇治(※)にラッサムの件を報告した。宇治も試してみたところ、非常に美味しくなると分かり、2人で「このメニューだ!」と大喜びし、その晩は飲み明かした。南インドの人々は、ラッサムを年に300回くらい食するので、味の素が使われるようになれば、大きな売上増が期待できる。
※宇治弘晃氏:インド味の素社の取締役
その後、消費者テストも実施したが、期待どおり、味の素を入れたほうが美味しいという評価が9割に上った。
それからは販促ポスターや営業マンのセールストークを「美味しいラッサムは味の素なしではつくれない」に統一し、一点突破の営業を推し進めた。
「ラッサムと味の素」の試食キャンペーンを実施
10月――
チェンナイは雨季に入り、多少過ごしやすくなったが、それでも日中は35度を突破し、灼け付くような日差しが頭上から照り付けていた。
あと数日で、「ディワリ」と呼ばれる、光(善)が闇(悪)に勝ったことを祝う、ヒンズー教の新年のお祭りがやってくる時期だった。
庶民が住む団地の一角に味の素のキャラバン・カーが3台停まり、人々が群がっていた。
キャラバン・カーの側面には大きな看板が取り付けられ、ラッサムの鍋に味の素が振りかけられている写真と「美味しいラッサムは味の素なしではつくれない」というキャッチコピーが、丸い輪ゴムを並べたようなタミル文字で書かれていた。
大きなパラソルの下のテーブルに、それぞれA、Bと大きく書いた紙が貼られた寸胴鍋サイズの黒い鍋が2つ置かれ、人々がそれぞれの鍋からラッサムを注いでもらい、試食していた。
「ニーンガル・エーヤイ・ヴィルンピナール、アダイ・インゲー・エルドゥンガル(もしAのほうが美味しいと思ったら、ここに書いて下さい)。Bのほうが美味しいと思った人は、こちらにお願いします」
新商品開発のために雇われた、黒い口髭に白い厨房着姿のシェフがタミル語でいって、試食をした人たちに、どちらが美味しいか投票させていた。
ラッサムと味の素の組み合わせの試食キャンペーンであった。