区が5億円を負担して実現
コロナ禍前の2018年度に、修学旅行で海外に行った中学校の割合は4.6%で、しかもそのほとんどが私立だったことを考えると、公立中学校で区内全校が海外へ修学旅行に行く、というのはかなり驚きである。
子どもを港区立中学校に通わせている保護者は、費用負担を増やすことなく海外へ行かせることが可能になる。しかし、保護者が負担する金額の数倍を区が負担する予定であることから、海外修学旅行が他の施策に優先すべきものなのかどうか、住民からは賛否の意見が出て当然だろう。
また、他の自治体で同様の施策を実現できるかというとそれは難しいと考えるのが一般的である。最近は、経済状況や家庭環境などによって体験機会に格差が生まれる「体験格差」にも注目が集まっているが、子どもたちの体験格差が自治体間で生じるのではないかといった否定的意見も上がっている。
そもそも、行先が国内にしろ海外にしろ、修学旅行を実施するにあたっては、その費用負担や労働負担と、教育的意義を比較した上で、後者の方が大きい場合にその実施が妥当とされる、という視点は常にもっていなければならない。
特に小中学校の場合、修学旅行参加はほぼ必須であり、実施学年を担当する教員も、修学旅行に関わる職務が自動的に発生する。経済的に厳しい家庭の子どもが修学旅行に行くため、就学援助制度を通じて公金が投入されることを鑑みると、個人が自分の意志で参加・不参加を決められるようなものでもないと思えてくる。「学校という場で行われる全員参加の教育活動」なのである。
学校徴収金だけで6万円以上
一般に修学旅行費といえば、「修学旅行積立金」などと呼ばれる学校徴収金を指すことが多いだろう。これは各家庭が共通して支払う費用であり、教職員にも保護者にも「見えやすい」費用負担である。
『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス)によれば、その費用は小学校で2万1600円(埼玉から日光1泊2日)、中学校では6万6200円にもなる(埼玉から京都・奈良2泊3日)。これはたとえば、交通費や宿泊代、見学料や保険料などであり、おこづかいも含まれている(同書p.140)。
徴収の方法はさまざまであるが、よく聞くのは分割払いだろうか。中学校の場合では、1年生の時から2年生にかけた割賦徴収である。積立金のゴールが6万6000円ならば6600円×10回払い――1年生と2年生でそれぞれ5回ずつ=3万3000円×2年間で徴収するのだ。
集金袋ではなく、金融機関からの自動振替が一般的といえるが、なかには授業参観の日など保護者が来校するタイミングに合わせた現金一括払いという方法を取る学校もあると聞く。