また、チケットの販売チャンネルに既存の流通経路を使わず、インターネット上の自社サイトだけを通じて消費者へダイレクトに販売します。「大阪~北海道片道料金250円!」といった極端に安いキャンペーン価格を設定するのもLCCならではですが、安さ自体が十分な魅力としてネット上で話題になるため、凝ったCMなどを打たなくても高い宣伝効果を得ることができるわけです。結局は低コスト戦略の一環といえますね。

航空経営研究所
稲垣秀夫氏

このように、極めて単純化された業務プロセスを積み重ねることで、FSAを圧倒する価格競争力が生み出されています。

なお、安さのしわ寄せとして「安全性に欠けるのでは?」と不安視する声もありますが、航空機の安全基準は国が定めた法律に基づいて管理される以上、整備に手を抜くことは不可能なんです。特に小規模なLCCにとって事故は企業として致命的ですし、業務がシンプル化されているゆえに、むしろ安全といってもいいでしょう。海外の統計でも、LCCとFSAで事故率に違いはないことが確認されています。

かつては飛行機に乗ることそれ自体が消費者にとってプレミアムな体験であり、贅沢なサービスを受けることが満足につながりました。しかし、LCCが普及することで航空ビジネスは完全に「日常的な商品」に変化しつつあります。個人的には、LCCとFSAはスーパーとデパートのような関係性で競争をし続けていくと考えていますが、ファーストやビジネスクラス以外の利用者にとっては、路線があればLCCを選ぶケースが増えることは確実でしょう。お仕着せのサービスよりも、経済合理的なシンプルさが空の上にも求められる時代が、もうすでにやってきているんです。

※すべて雑誌掲載当時

航空経営研究所 稲垣秀夫(いながき・ひでお)
日本航空の整備部門で20年弱、もっぱら整備企画業務に携わった航空会社の整備部門経営の専門家。日本航空の整備企画室部長を経て、ロンドンにあるインターナショナル・ケータリングLtd.,のCEO、JALテクノサービス代表取締役社長等を歴任し、2000年6月に退任
(構成=呉 琢磨 撮影=小原孝博)
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