渡辺喜美・みんなの党代表。

その場面で、8月2日、自公を除く野党が増税法案廃案を狙って内閣不信任決議案の提出を決めた。にわかに政治は緊迫した。攻防劇の開幕ベルを鳴らしたみんなの党の渡辺喜美代表(元金融・行政改革担当相)が振り返る。

「われわれのシナリオは国民の気持ちに一番近い『増税なしの解散あり』です。野田内閣のメーンシナリオは『増税ありの解散なし』で、これを壊すために不信任案を提出した。決断したのは自民党内の足並みの乱れがわかったから。小泉純一郎元首相が自民党の石原伸晃幹事長に『絶好のチャンスをなぜ生かさないのだ。卓袱台返しをやれ』と言ったという話を報道ベースで聞いた。7月31日の朝、これでいけるかもしれないと私の頭の中でひらめいた。そこは反射神経です」

べたなぎ国会は一転して荒れ模様となる。民主党執行部は増税法案の参議院の採決を8月20日以降と想定していたが、法案成立最優先の野田は3日、慌てて「10日の採決」を指示した。

自民党では衆議院議員の小泉進次郎ら若手を中心に3党合意破棄論が浮上する。9月に総裁選を控える谷垣禎一総裁は、押されて強硬路線に傾斜し、解散確約要求を唱え始めた。これを見て森喜朗元首相ら増税派の長老議員や公明党が増税法案成立の方向で動き始める。谷垣は舵取りに苦慮した。一方、民主党の輿石東幹事長は党内の総選挙恐怖症に配慮して解散先送りを策したが、野田は法案成立最優先の姿勢を崩さない。8月8日、国会対策委員長の城島光力は「法案成立後、近い将来に信を問う」という野田の言葉を自公両党に伝えて了解を求めたが、「時期が不明確」と拒否された。

最後に8日の夜、野田と谷垣の党首会談となる。「法案成立の暁には、近いうちに国民に信を問う」という表現でやっと合意した。民自連携が再確認されたため、流れは決まった。自公を除く野党6党提出の内閣不信任案は翌9日、衆議院で民主党などの反対多数で否決となる。続いて10日、参議院で増税法案が民自公3党などの賛成で可決された。

だが、「近いうちに」はどの時期を指すのかという点も含め、玉虫色の両党首合意について、内約、黙約、密約など、裏の約束があったのではという疑いが残り、政争の火種としてくすぶり続けた。