百貨店業態は人員が必要ゆえ人件費がかさむ

百貨店には必ず「平場ひらば」と呼ばれる自主運営売り場がありますが、ファッションビルには存在しません。商品を購入する際の支払場所も百貨店とファッションビルでは全く異なっており、百貨店はすべての商品を百貨店のレジで精算しますが、ファッションビルは各テナント内で商品の代金を精算します。

ですから百貨店だと商品の代金は一度百貨店の売上高として計算され、百貨店から手数料が引かれて各ブランドに入金されますが、ファッションビルは自店の売上高になり、そこからファッションビルに家賃を支払うという形になります。

衣料品店でスーツを選ぶ男性
写真=iStock.com/RealPeopleGroup
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このように、自分たちで売り場を編集する「平場」を持ち、支払いレジも運営しているため、百貨店はファッションビルに比べてより多くの人員が必要となり、人件費が増大します。

例えば、そごう・西武の21年度の期末社員数は全店合計で2135人、パートタイマーの人数は2414人となっています。店舗によって規模は違いますが、単純に店舗数の10で割ったとしても、1店舗当たり約450人が在籍していることになります。一方、ルクア大阪と天王寺MIOを運営するJR西日本SC開発の従業員数は22年7月1日現在でわずか276人しかいません。

また、百貨店を運営するには商品を仕入れるためのノウハウや、バイヤーと呼ばれるスタッフが必要になりますが、ファッションビルの場合は必要ありません。

これらのことを総合的に考えると、百貨店を開業するには、高コストでしかも独特の商品仕入れノウハウや専用スタッフが必要になるので、ファッションビルの開業よりも難易度が高いといえます。そのため、新規百貨店の開業は時代とともに減ってしまったといえるでしょう。

「ターミナル駅に百貨店」の必要性は既に薄れている

現在、コロナ明けのにぎわいとインバウンド客の回帰によって、伊勢丹新宿本店や阪急うめだ本店などの都心旗艦百貨店は軒並み好調で過去最高売上高を更新しています。もちろん西武池袋も好調ですが、ターミナル駅近立地に必ず百貨店がある必要性はすでに90年代後半から薄れていますので、今後その必要性はさらに薄れるでしょう。

新たにそごう・西武を買ったフォートレス・インベストメント・グループとそのパートナーであるヨドバシカメラが今回のストライキや一部からの反対を受けてどのような売り場を作るのか注目が集まっていますが、これまで通りの西武池袋本店を維持できる可能性は極めて低いのではないかと個人的には見ています。