ホワイトカラーの事業所が集積して都市は出来上がる
都市型の産業集積とはどんなものか簡単におさらいしておこう。都市経済学では産業集積について特化型と都市型集積という類型を利用することが多い。例えば、新潟県燕市に見られる洋食器や福井県鯖江市の眼鏡フレームなどは典型的な特化型であり、特定財の生産に従事する多くの事業所が集積する。他方、都市型集積においては特定財やセクターに集中が見られるのではなく、多様な異業種の事業所が密集して立地する。
その典型は東京や大阪の全国規模の大都市、あるいは札幌、福岡などに代表される嘗ての「支店都市」であろう。これらの都市型集積の目立った特徴は本社機能や営業拠点あるいは研究開発拠点など、ホワイトカラー中心の事業所の集積である。カギとなるのは、このようなセクターのコアに企業向けサービスセクターの様々な業種と企業があること、そしてこれらサービスセクターの企業が強い集積の利益を持っている点である。
東京・大阪と京都の決定的な違い
京都は同規模の他の都市に比べて、このような企業向けサービスを核とするオフィス集積を呼び込む誘因に乏しいし、実際の立地にも欠ける。企業向けサービスの分野では、立地する事業所が、企業向けサービスを提供すると同時に、他の企業向けサービスの需要者としても存在するという双方向の市場リンクが決定的な役割を果たす。
京都にはこのような都市型集積が決定的に不足している。また、京都は地域労働市場の「厚み」にも欠ける。日本で随一の大学都市でありながら、京都の大学を卒業した学生の大半が京都を去るのが何よりもその強い証拠である。
但し、京都には他の地方都市には見られない「厚み」のある分野が点在し、その多くが工芸や伝統技能にかかわるものである。高度成長期とは戦前からあった京浜や阪神の製造業集積が、都心から郊外、そして近隣府県へと分散する過程であり(Mano and Otsuka 2000)、その中で東京や大阪は次第に本社・営業・研究開発といった機能に特化したオフィス都市に変化していった。
京都では都心部のこの機能純化というプロセスが進行することのないまま、それ以前の手工業中心の集積と飲食店や宿泊施設が中心部で大きなシェアを占め、限られた企業の本社機能は南西回廊に点在して、近代以前とポスト工業化が併存する独特の姿となったといえる。