アバターはゲームやネット上だけの存在ではない
アバター? おまえはロボットの研究者ではなかったのか? と思う人もいるかもしれない。たしかに僕は、自分そっくりのアンドロイドや、夏目漱石やタレントのマツコ・デラックスさんそっくりのアンドロイドを作った人物として、しばしばメディアで取り上げられている。僕のことを「人間型のロボットを作っている人」だと思っている人も多いだろう。
だが僕は、必ずしも人間そっくりのロボットばかりを作ってきたわけではない。1990年代末からアバターの研究・開発にも取り組んできた。ただそれは、おそらく今みなさんがイメージするような、ゲームやインターネット上のサービスで動かすことができる(だけの)アバターとは少し違う。
たとえば僕がこれまで作ってきたアバター技術、あるいはこれから作ろうとしている「アバター共生社会」においては、QuestやVIVE、VRGのようなHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、VRヘッドセットはなくてもかまわない。ゴーグルを着けて利用するアバターがあってもいいが、必須ではない。
「メタバースは近い将来ポピュラーなものになる」という予想に対する否定的な意見として、「第三者から見るとマヌケに映るヘッドセットを着けるのはイヤだ」「ハードウェアであるHMDをいかに普及させるかがカギだが、必要を感じていない人に買ってもらうのは難しい」「ヘッドセットは世代交代が非常に早く、マスな消費者に2、3年に一度、数万円するものを買い換えさせるのは現実的ではない」などというものがある。だがゴーグルを着けなくてもいいのであれば、それらの問題はそもそも生じない。
「アバターは現実世界とは関係ない」という考えはもう古い
ここまで読んで「メタバースだけでもわけがわからないのに、今度はアバター? もうついていけない」と思った人がいるのなら、安心してもらいたい。アバターは今言ったようにゴーグルを着けなくても動かせるし、パソコンよりも簡単に扱える。
たいていの場合、複雑な使い方を覚える必要はない。自分がアバターを操作するときも、アバターと相対したときも、語りかけるかタッチパネルで操作すればいいものが大半だ。日常的なちょっとした動作であればキーボード操作の必要すらなく、音声入力やタッチするだけで十分なのだ。
改めて用意しなければいけないインフラやデバイスもほとんどない。たとえ過疎地の田舎であっても、電気とWi-Fiとスマホかタブレット、ノートパソコンがあれば利用できる。
僕が普及を目指しているアバター、および今後到来すると考えている「アバター共生社会」は、メタバースの中で完結するようなものではない。僕たちが今、生きている実世界でも、アバターは稼働するからだ。
「アバターは仮想空間内の存在であって、現実生活とは何の関係もない」という固定観念があるのなら、まずその考えを捨ててもらいたい。
メタバースは「空間」の話であり、アバターは人々が動かす「分身」の話だ。メタバース空間に紐付かず、この実世界で稼働するアバターも当然存在する。
あなたの分身であるアバターが、この現実世界で活動することを想像してもらえればいい。ここで言うアバターはスマホやタブレット、大型ディスプレイに映したCGアバターのこともあるし、物理的に実世界に存在する、遠隔操作可能なロボットのこともある。遠隔操作できるロボットもまた「操作者の分身=アバター」だ。いずれにしても現実世界で、アバターが人間の分身として活動する、それが僕が実現したい未来である。