原発のことを「死んだ馬」呼ばわり
世論調査で回答者の72%が、「ショルツ首相は具体的な解答を避ける」と答えたが、それに関しては、「決断をする時にはよく考えなくてはならない。私はこれからもそうするということを、ここではっきり言いたいし、誰もそれをやめさせることはできない」と、穏やかな表情で、静かに、念仏を唱えるように答えた。
結局、氏はこの日も、「国民は自信を持って、落ち着いていれば良い」として、遠い将来の多くの輝かしい成功を約束してくれた。しかし、産業界は、今、助けを求めているのだ。ショルツ氏の話に、失望を通り越して、怒りを覚えた人は、特に産業界に多かったと思う。
9月初めには、経済、および政策研究を行う公的機関Ifo研究所の長官が、ショルツ首相に原発の再稼働を提案した。同じことは、野党のAfDだけでなく、与党である自民党も前々から主張している。ところがそれに対してショルツ氏は、原発のことを「死んだ馬」と切り捨てた。原発は、2年後には復活したくてももう手遅れなので、このまま行くと、ドイツは着々と脱産業に向かうことになる。現政権のもたらす被害は、ドイツの将来にとって限りなく大きい。
産業大国の地位が危ぶまれているが…
9月5日には、ミュンヘンでIAA(国際モビリティ見本市)が始まったが、週末にジョギングで転んで顔をぶつけたというショルツ首相が、右目に、まさに海賊スタイルの黒い眼帯を付けて現れ、開会のスピーチをした。IAAは世界最大のモーターショーだ。
ただ、ここでもショルツ氏は、高性能で美しく、価格的にも手頃なEVで繁栄するドイツの輝かしい未来を、称賛とともに語った。自動車産業の立地としてのドイツの国際的競争力に対しても、氏は微塵の疑いも持っていないという。つまり、ここでも、「国民は自信を持って、落ち着いていれば良い」のであった。
話は少し飛ぶが、実はショルツ首相は、ハンブルクのヴァールブルク銀行が関与した史上最高ともいわれる大規模な脱税事件において、当時のハンブルク市長として関わっていた疑いが消えていない。2度の証人喚問は、「記憶にございません」と持ち前のヌルヌル答弁で逃げたが、しかし、この捜査はまだ終わっておらず、最後まで逃げ切れるかどうかはわからない。