内需に力を入れてこなかったツケがきている
それどころか8月は、電気の輸入は6505ギガワット時(GWh)という最高記録を記録した。つまり、ドイツは安価で安定的なエネルギーの供給という産業の立地条件を完全に失ってしまったわけだ。ところが、ショルツ首相は何を勘違いしたのか、「ドイツ企業が国外で投資することは良いことだ」
また、やはり脱原発の急先鋒であったハーベック経済・気候保護相は、最近、自動車産業が外国に出ていく様子を見て、「自動車産業には、ドイツの産業立地を守る責任がある」。元々、経済音痴と言われていたハーベック氏だが、資本の流出は、政府が立地条件を壊したために起こっているという自覚がまったくないことが露呈した。
なお、8月29日には7つの州の首相が、これ以上の産業の崩壊を防ぐため、すでに世界一高くなってしまったドイツの産業用の電気代を数年にわたって抑えるよう、政府の介入を強く求めた。それに対して政府がどう対応しているかというと、イエスの緑の党と、ノーの自民党と、優柔不断な社民党で、いつものことながら党内抗争。このままではいかなる救済措置も手遅れになる可能性が高い。
ドイツは政府だけでなく、すでに全体としても機能不全だ。ドイツの一人勝ちと言われていた時代、産業界は輸出で大いに潤ったが、政府は内需に力をいれず、インフラ整備も無視した。そのため、今では道路も橋も鉄道もボロボロで、8月30日にDifu(都市計画のためのドイツ研究所)が発表したところによれば、それらの改修には2030年までに3720億ユーロが必要とのこと。
家も人材も足りず、教育の質の低下が止まらない
住宅難も深刻で、多くの都市では、普通の収入の人が支払い可能な家賃の家を見つけるのは極めて難しくなっている。昨年は、40万戸を建設するというのが政府の目標だったが、今となってはそんなお金はどこにもない。
また、国土強靭化、特に治水が疎かにされたため、ちょっと雨が降ると毎年のように河川が溢れ、あちこちで住宅地や畑が水に浸かる。政治家はそれを温暖化による異常気象のせいにして、「だから再エネを増やせ」というトンチンカンな主張にすり替えている。
なお、さらに著しいのが教育の崩壊だ。これまでも教師不足で小中高校の授業のコマが減ったり、突然の休講が増えたりしていたが、9月の新学期から状況はさらに悪化するという。ここ数年は、教員として養成されていない人を臨時教師として採用している州も多いが(教育は州の管轄)、人手不足の折、優秀な人材は民間企業にとられてしまっているため、教育の質の低下が止まらない。今のドイツでは、すでに教師は魅力ある職業ではなくなってしまったようだ。
教員不足と学力の低下に関しては、ドイツが移民や難民の子供たちを大量に抱えてしまったことも原因の一つだ。特に小学校では、3歳児程度のドイツ語の能力しかない多くの子供たちが入学してくるので、指導に困難が生じている。すでにOECDの「中」まで落ち込んでいるドイツの子供の学力だが、今後はさらに落ちるだろう。ビスマルク時代より続いた教育大国も、今や風化が激しい。