■「自己暗示のことば」をもたないと、プラス思考は実現しない
プラス思考は、人生が順調な時には、だれでも容易にできますが、ひとたび恐ろしい病にかかったり、仕事が行き詰まったりすると、たちまちできなくなります。しかし、病気の時や、運命のおもわしくない、困難に直面した時こそ、プラス思考ができないと、それを乗り越えられないのです。
平素から「元気の出ることば」を自己暗示としてくりかえし唱えていると、いざというときに、自発的に「折れない心で」プラス思考をして、病や困難をのりこえていく、頼もしい自分を発見できるのです。
■「唱詩」(=自己暗示のことば)で自分の心を鼓舞しよう
唱詩とは、数個の文章から成り立つ、朗唱のための詩という意味です。
ふつう、自己暗示のことばとか、座右の銘というと、ワン・センテンスほどの短いものですが、数個の文章から成り立っている方が、思考の根拠を盛り込むことができ、自分に対して説得力が生まれ、より効果的になります。
■中村天風は自己暗示のことばで、病を克服した
ネパールで悟りを開き、病を克服して、帰国して50年間、実践哲学を説いた中村天風は、その後も健康一筋というわけではありませんでした。(あまり知られていない事実ですが)その後も色々な病とたたかいましたが、すべて瞑想と自己暗示などの方法で克服し、健康を享受し92歳まで呆けることもなく活躍し、長寿を全うしました。しかも自己暗示によって自己変革をとげ、人格を陶冶し、多くの政財界の人々に尊敬されました。
天風の自己暗示のことばは、『運命を拓く』(講談社文庫)に掲載されています。
■ノーベル賞をうけた益川教授の座右の銘を唱詩にする
益川敏英さんは私の大学の同僚ですが、「眼高手低」という座右の銘をもっておられます。その意味を私は次のような唱詩にしました。これが唱詩の一例です。
私は人の世のために役立つような
立派な科学者となるために
高い目標をみつめて
手は低いところで
コツコツと地道な研究にはげもう!
このような唱詩を自己暗示のことばとして毎日唱えると、自然に信念は強くなり、理想が牽引力となり、科学をめざす若い人が育つにちがいありません。
■「般若心経」を自己暗示の唱詩にする
むつかしい般若心経の意味がスラスラ分かる人は、原典を唱えるのもよいでしょうが、分かりやすい現代文で真意をとなえると、自己暗示力によって、いっそう「空の思想」を自分の信念にして、頼もしい自分になれるでしょう。
一切空
物には実体はなく、一切は空である。
人がふつう感覚しているものは、すべて空である。
人がふつう思ったり考えたりしているものは、すべて空である。
人が意志しているものも、すべて空である。……(以下略)
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このように、ことばには驚くべき暗示の力があります。そしてそれは多くの人がすでに気づいていることです。にもかかわらず、多くの人はなぜ自己暗示にことばの力を活用しないのでしょうか。おそらく、まわりにそのような人がいないからにすぎないのではないでしょうか。
ことばの自己暗示とは、自分で自分を励ますことです。自分の心を喜ばすことです。ことばを自分にむかって発したその瞬間に、自分の心がそのことばどおりに変化していきます。真剣に、毎日くりかえし実践すれば、その驚くべき魔法のような効果が必ずや実感できるはずです。
自分の人生を変えられるのは他人ではありません。ましてや一冊の書物でもありません。この世でたったひとつ、自分自身の「ことば」だけです。
日々の仕事の悩みや不安で疲れた自分の心を自分自身で大いに励ましてやろうではありませんか。