ロシアの行動の背景にあるトラウマ
私たち日本人は、欧米人から中国・韓国人とほぼ一緒のように見られがちですが、実際には日本人も中国人も韓国人も、それぞれ別の文化を持つ独立した存在であると自覚しています。同じように、私たちは何となく「ヨーロッパの人たち」というイメージで一括りにしがちですが、ヨーロッパの人たちもそれぞれのアイデンティティを持っているわけです。
そういったアイデンティティはたとえ他国に征服されたとしても、消えずに残っていて、どこかのタイミングで沸々と発芽するのかもしれません。
ロシアにとって「タタールの軛」は大きなトラウマであり、これが周囲からの包囲を極端に恐れる臆病さや、攻撃的な姿勢を生み出しているともいえます。モンゴル帝国による支配の歴史を学ぶには『蒼き狼』(井上靖著)や『チンギス紀』(北方謙三著)のシリーズがおすすめです。特に『チンギス紀』ほど、チンギス・ハンという人物を掘り下げた作品を私は知りません。
こうした作品を読んで知識を身につけておけば、さまざまな角度から議論ができます。戦争の問題については、ただ非難するだけでなく、歴史を学んで語ることも重要でしょう。
グローバル時代だからこそ自国の歴史を学ぼう
「もはや海外に出て働く時代だから、日本の歴史を学んでも仕方がない」。グローバル化が進んだ現在、日本国内でもそう考える人が増えているようです。
しかし、海外の人と実際に交流してみると、みんな自分たちのルーツを大切にしていることに気づきます。自国の歴史を大切にしているからこそ、独自のアイデンティティを活かしながら世界に価値を発揮していけるわけです。
私も海外の人と話をするときに、自然とお互いの国の歴史について意見交換をすることがあります。以前、アメリカの留学生から「なぜ日本に武士はいなくなったの? てっきり今もいると思っていたんだけど……」と聞かれ、説明に往生した経験があります。
「武士は今から150年近く前にいなくなったんだよ」
「じゃあ、いったい誰が武士を倒したの?」
「明治という政府を作った人たちだよ」
「その明治政府の人たちは、どこからやってきたの?」
「彼らも武士だったんだよ」
「えっ? 武士が武士を倒したってこと? 武士を倒した武士は、いつから武士をやめたの?」