ナチス・ドイツと同列視されるプーチン政権

話を現代に戻そう。プーチン氏は今年2月21日、ロシアの国会議員らを前に次のような年次教書演説を行い、ウクライナ問題に対する責任の一端をハプスブルク家になすり付けている。

「ウクライナを『反露』に改造する計画は19世紀にまでさかのぼる。旧オーストリア=ハンガリー帝国などが、現在ウクライナと呼ばれているロシアの歴史的領土を剝奪するという目的のために構想したのだ」

そんなプーチン氏への反感はもちろんあるのだろうし、ウクライナ西部の都市リヴィウ周辺はハプスブルク家の旧領だからウクライナ国民に親しみを抱いてもいるのだろうが、それらの理由だけでは説明がつかないほどにカール大公は鋭いロシア非難を展開している。

例えば、ウクライナ侵攻が始まった当日である2022年2月24日、大公は早々に「死の収容所」設置の可能性を懸念したし、同年9月にはスロヴァキアの週刊誌『Plus 7 dní』に対して次のように述べた。

「ロシアは政府のふりをしたマフィアかギャングに支配されている。国家として正当性を与えてしまうことになるので、私なら絶対に和平交渉の相手にしない」

プーチン政権に対するカール大公の態度は、ヒトラー自殺後にその後継者として降伏寸前のナチス・ドイツを率いたデーニッツ政権を「デーニッツ・ギャング(бандой Дёница)」と呼び、独中央政府としてのいかなる権力も認めようとしなかった旧ソ連を思い起こさせる。彼は亡父の「プーチンこそが新たなヒトラー」だという見解を受け継いでいると――少なくとも現ロシアをナチス・ドイツの同類と見なしているのだと考えてよいだろう。

ヒトラーに似せたプーチンの顔が描かれたステッカー
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「ロシアは中国のジュニア・パートナーにすぎない」

ハプスブルク家は親子2代にわたりプーチン政権をかなり危険視しているわけだが、今を生きているカール大公の世界観には、亡きオットー大公とは決定的に異なる点がある。

今年1月11日に62歳を迎えたカール大公は同日、オーストリア汎ヨーロッパ運動の代表としての「欧州の未来に関する演説」の中でこう述べている。

「中国の指導者たちにとって、ロシアはすでにジュニア・パートナーにすぎない。中国はとうの昔にロシアを凌駕しており、ロシアと同じく、一般的に西側が立っている自由、民主主義、法の支配、自由経済の制度に対する大きな脅威の一つになっている」

大公は「中国は独自のイデオロギーで新たな国際秩序を構築しようとしている」とも言っている。亡父が「最大の脅威」とみなしたロシアが核恫喝を実際に繰り返す時代にあって彼は、中国のほうが深刻な脅威だと捉えているのだ。