富裕層が増え続け、フェラーリも増えている

02年に発表されたエンツォ・フェラーリは限定399台、日本正規販売価格7850万円だった。13年のラ・フェラーリは限定499台で、推定新車価格は約1億6000万円である。

一般大衆が無関心になっても、フェラーリの限定モデルの性能と価格は上昇を続け、需要の高まりに適度に応える形で、生産台数も徐々に拡大した。

今回のSF90XXストラダーレは、F40、F50のような「10年に一度の限定アニバーサリーモデル」ではなく、一般販売モデルのSF90 ストラダーレ(日本正規販売価格5340万円)をスペシャルに仕立てたもの。

つまり格はだいぶ落ちるのだが、価格は、SF90 XX ストラダーレが77万ユーロ(約1億2000万円)、SF90 XX スパイダーが85万ユーロ(約1億3400万円)と、ラ・フェラーリに迫っている。それでいて生産台数は、合計1398台とかなり多い。世界的なカネ余り現象により、富裕層が増え続けていることの表れだ。

SF90 XXに搭載されるプラグインハイブリッドシステムの最高出力は、1030馬力。ラ・フェラーリの963馬力を上回っているが、こういった数値には、勲章以外の意味は特にない。

Ferrari SF90 XX Spider。わずか2秒で時速100キロに到達するモンスターマシンだ。
写真提供=フェラーリ・ジャパン
Ferrari SF90 XX スパイダ―。わずか2秒で時速100キロに到達するモンスターマシンだ。

「雨の日には乗ってはいけない」ほど危険だった

SF90XXは、公道も走れるレーシングカーであり、基本的にはサーキットでその性能を発揮すべく設計されている。ベースとなったSF90 ストラダーレとの最大の差異は、サーキットでのパフォーマンスを大幅に引き上げた点にある。巨大なリヤウイングもそのためのものだ。

しかし、実際にこのクルマでサーキットを走るオーナーは、ごく一部だろう。そんなことをすればクルマが傷んで、価値が下がってしまう。

まだ世界がスピードへの情熱で満たされていた20世紀、F40でサーキットを爆走することを夢見る者は少なくなかった。F40は「赤い狂獣」と呼ばれるほど手ごわいマシンで、ハンドルもブレーキもクラッチも信じられないほど重く、F1ドライバーですら「雨の日には乗ってはいけない」と語ったほど危険な操縦性を持っていた。つまり古き良き男のロマンだった。

しかし現在のフェラーリは、比較的簡単にその性能を発揮させることができる。パワステ・パワーウィンドウ・オートマなど、快適性の確保はもちろんのこと(F40にはすべて無し)、クルマが勝手に速く走ってくれるように作られている。