【他人のために交渉するとき】

男性より女性に有利に働くと思われるジェンダー・トリガーが、本人の役をする(自分自身のために弁じる)のではなく、代理人の役をする(他人のために弁じる)ことだ。冒頭の例で明らかなように、女性は他人のために交渉するときのほうが、パフォーマンスが高いことが、われわれの実験で判明している。

われわれは、バブコックと一緒に、大勢の企業幹部を集めて、新しいマネジャー・ポジションへの社内登用の候補者の報酬を交渉させるという実験を行った。被験者の半数は候補者として、残りの半数は候補者のメンターとして交渉した。ネゴシエーターには合意の参照枠も標準も与えず、きわめて不確実性の高い交渉環境をつくった。メンターとして交渉した女性幹部たちは、候補者として交渉した女性幹部たちが獲得した額より18%高い報酬を勝ち取った。一方、男性幹部はどちらの役割でもパフォーマンスは変わらず、候補者として交渉した女性幹部と同レベルだった。

これは、女性の被験者が自分にはあまり高い給与をもらう資格がないと思っていたということではない。交渉前に希望の給与額を尋ねたときには、女性幹部も男性幹部とほぼ同じ額を希望していたのである。また、女性のほうが交渉能力が高いとか低いとかいうことでもない。それよりも、女性幹部は他人の利益を代弁しているという責任を感じているとき、とくに頑張るということのようだ。