交渉能力に男女の差はないが、「より能力を発揮しやすい環境」には違いがある。環境の違いによって、強みや弱みの発現のしかたが変わってくることを認識することで、より有利な結果を導きだせるだろう。

小さな資金運用会社の運用ディレクター、モーリーン・パークにとって、ここ数カ月は試練のときだった。親会社の大手金融サービス会社が予測を下回る実績しかあげておらず、人手不足で超過勤務続きのアナリスト・チームは士気が低下していた。

そんな折、彼女のチームの最も優秀なアナリスト2人が、年次考課後に大幅な昇給を要求してきた。彼女たちは、自分たちの給与は同レベルの他社のアナリストより大幅に低く、(競合他社から引き抜かれてきた男性の同僚も含めて)自分たちよりパフォーマンスの劣る自社の社員たちよりも低いと思われる、と主張した。

経営陣からは物価上昇分の昇給にとどめるよう指示されていたが、パークは優秀な部下のために熱弁をふるった。意外にも、彼女の上司は、2人のアナリストに大幅な昇給をオファーすることに同意した。自分の勝利を振り返りながら、パークは自分の直属の部下7人のうち3人が来年は自分より高給取りになることに思い至って、苦い思いを噛みしめた。彼女自身は小幅な物価上昇分の昇給をすんなり受け入れていたのである。昇給を勝ち取ることがこれほどたやすいのなら、なぜ自分自身のために弁舌をふるわなかったのか。自分自身のために交渉するときと他人のために交渉するときで、パークの交渉の仕方に彼女のジェンダー(性別)に起因するなんらかの違いがあったとは考えられないだろうか。

男性と女性ではどちらが優れたネゴシエーターだろうか。われわれの調査によれば、どんな交渉においても男性のほうが、もしくは女性のほうがパフォーマンスがよいとか、悪いとかいうことはない。しかしながら、特定のタイプの交渉、とりわけ、交渉の機会と限度が明確ではなく、そうした不確実な状況では、ジェンダーのトリガー(選好、期待、行動の性差を助長する状況的刺激)が男性と女性で異なる行動を誘発し、その結果、男女によって交渉結果に差が出る可能性が高くなる。

これらの違いは時間を経るなかで途方もなく大きな不平等を生むことがある。ジェンダーに関連した利点や不利益を生む要因を認識することは、それらのもたらす結果を緩和し、より平等な職場を推進する助けになるはずだ。