【激しい競争があるとき】

競争をともなう交渉は、男性のほうが女性より競争心があり、競争的環境で成功する可能性が高いという社会的期待どおりに、トリガーとして機能することがある。シカゴ大学のウリ・ニージー、スタンフォード大学のミュリエル・ニーデルレ、ミネソタ大学のアルド・ルスティキーニが行った実験によると、他人のパフォーマンスに関係なく個々人が自分の報酬を最大化するために働く「出来高制」の状況では、男性と女性は同等の能力を発揮する。

しかし、相対的パフォーマンスを比較することで報酬が決められる競争的環境の中では、男性のほうが女性より高い能力を発揮する。これは競争のプレッシャーのために女性が萎縮するということではなく、競争的環境のなかでは男性がパフォーマンスを向上させるということだ。

新卒のMBAを待ち受けているきわめて競争的な雇用市場について考えてみよう。われわれはカーネギー・メロン大学のリンダ・バブコックとともに、一流ビジネス・スクールのMBA新卒者について、男女の初任給の違いを分析した。不確実性の低い産業では、求職者にとって給与水準が比較的はっきりしていた。投資銀行業、コンサルティング業、ハイテク産業などがこうした産業に入る。テレコミュニケーション、不動産、医療サービス、メディアなど、不確実性の高い産業では、初任給の水準はあまり明確ではなかった。

不確実性の低い産業に就職したMBA(調査対象者の70%)の場合、交渉で勝ち取った給与額に男女の違いはなかった。しかし、不確実性の高い産業では、男性が勝ち取った額のほうが女性の勝ち取った額より平均で1万ドル高かった。

競争的環境がネゴシエーターに交渉の伝統的に「男性的な」性格を意識させ、特定の産業の不確実性が、男性と女性から異なる交渉行動を引き出したのである。これらの初任給の違いは時間が経つにつれて拡大する。