有森裕子がもっていたすごい力
まず1人目は、元マラソン選手の有森裕子さん。有森さんといえば、バルセロナ、アトランタオリンピックと、2大会連続でメダルを獲得したマラソン界の成功者です。そんな有森さんに私がお話を伺って驚いたのは、高校に入学して陸上部に入部を希望したものの、陸上部の監督はランナーとしては素人同然だった有森さんの入部すら認めてくれなかったというのです。
ただ、それでも諦められなかった有森さんは、監督に入部が許されるまで粘り強くアピールし、1カ月後にようやく入部が許可されたといいます。ただ、高校では特段目立った記録を出すことができず、大学に進んでからも変わらず、大学を卒業してからの進路も、実業団であるリクルートになかば押し掛けで自分から連絡を取り続けたそうです。
その熱意を小出義雄監督に認められ、最初は「マネージャー兼選手」という形でやっと陸上部に入部でき、そこから小出監督の指導によって開花したというわけです。
やり抜く力と前頭葉の意外な関係
そして2人目が、元プロテニス選手の松岡修造さん。現役時代は世界のテニス界で目覚ましい活躍を披露し、当時の日本人最高ランクである46位まで到達し、4大大会でも輝かしい成績を残しました。
テレビでは熱血キャラでいつも前向きなイメージの松岡さんですが、そんな松岡さんもまた、テニスを始めたジュニアの頃は自分の恵まれない体格と身体能力に相当悩んだといいます。でも、才能のなさを指摘されながらも、松岡さんは諦めることなくテニスクラブで指導を受け、貪欲にテニスを学びました。
さらに、松岡さんは“幼稚園から慶應一筋”という環境で育ってきた甘さが自分の成長を阻害していると考え、自分自身を鍛え直すため、自ら志願して九州のテニス強豪校に転校したそうです。そこで自分に甘えることなく、粘り強く努力をし続けた結果、徐々に頭角を現していったというのです。
このように、有森さんや松岡さんなどの名選手でさえも、生まれ持った才能を頼りにして成功を勝ち取ったわけではないのです。自分の設定したゴールに向かい、何があっても諦めず徹底的に戦い続ける。
この資質こそがやり抜く力ということなのですが、なぜこの2人のアスリートの事例を紹介したのかといえば、このやり抜く力というのは前頭葉の発達と相関関係があることが脳科学の研究でわかっているからです。