日本は「男性側から恋愛関係を始める」傾向にある

この国の女性は世界的に見ても「受け身」であることが知られており、たとえば恋愛関係の開始については基本的に男性側のアプローチ、つまり「告白」というアクションの発生を待つ傾向がある(内閣府「平成27年度少子化社会に関する国際調査報告書」2016年3月)。

男性と女性が知り合うにしても、友達になるにしても、恋人になるにしても、異性関係構築における「ファーストステップ」を踏み込むのは原則として男性の役割である。よほどの例外的な事由がないかぎり、男女逆転パターンは見られにくい。

異性関係の構築においてはもっぱら男性が「相手の女性のパーソナルスペースに踏み込む」という社会的リスクのともなう行動をとらざるを得ず、その行動はしばしば“侵襲的”な側面を持っている。ここでいう“侵襲的”とはつまり、気分を害したり、不安を与えたり、不快感を与えたりと、相手に負の感情や経験を与えうる加害性のことだ。

パーソナルスペースに侵入して接近し、お近づきになろうとする行為は、もちろん相手側からそのアプローチが歓迎されればそれで丸く収まる。しかし当たり前のことだが、男女の出会いと関係構築はいつだってそのような好首尾に終わるわけではない。近づくのを歓迎されることなく、「望ましくないかかわり」として鬱陶しがられ、拒絶されてしまうこともある。というか、男性からすればそちらの経験のほうがずっと多いだろう。

ピンクの薔薇の花束を背中に隠して、相手の到着を待っている男性
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「お近づきの失敗」が単なる失敗では済まなくなった

相手のパーソナルスペースに踏み込んで異性関係を構築しようとする試みが失敗したときに、相手から「キモい」「ウザい」などと思われて拒絶されるくらいで済んでいたひと昔前はまだマシであったというほかない。現在だとそれで済まないこともある。「お近づきの失敗」は、下手をすればそれ自体がハラスメントや性加害として指弾され、ときに社会的あるいは法的(最悪の場合は刑事的)なペナルティが発生する可能性さえもある。

現在の日本で妙齢の男性たちがますます「恋愛離れ」を加速させているのは、異性関係を構築するためのルートが日本では実質的に「男性主導で相手のパーソナルスペースに侵入してコミュニケーションを試みる」以外にはまったくといってよいほど存在していないのに、現在の価値観においてそのような営みの「有害性」や「非倫理性」がますます高くなっているためだ。

とどのつまり、親密な異性関係を得るための最初のステップとして、パーソナルスペースに踏み込んで「加害者になるかもしれない」という行為をすることのリスク・リターンが、現代社会の男性にはほとんど見合わなくなってしまっているということだ。