野党第一党が連携を示唆したとたん大騒ぎに

さて、前述のように、この状況で苦悩しているのが、メルケル首相の引退後、先の総選挙で鼻の差で社民党に負けたCDUだ。当初は連立交渉で政権を保とうとしたものの、緑の党に振られ、野党に転落。党首のメルツ氏は現在、メルケル前首相が思い切り左傾化させたCDUを、再び保守党に戻すことを目標に掲げている。

ベルリンのCDU本部
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メルツ党首とメルケル前首相は、20年来の宿敵ともいえる険悪な仲なので、メルツ氏にとっては、前首相の痕跡を消すためにも、党の方向転換は大いに成功させたいところである。ところが、蓋を開けてみたら、すでに多くのCDUの政治家は緑の党と意を一にしており、これで果たしてCDUが保守に回帰できるのかは大いに疑問だ。

そのメルツ氏が7月の終わりに、インタビューで突然、「民主主義の選挙で選ばれた政治家とは力を合わせていかなければならない」という趣旨のことを言った。これはつまり、新しく選出されたAfDの首長らとの共同作業を意味するのだが、そのとたん、ドイツの政界は大騒ぎ。メルツ氏は、まるで悪魔と協定を結ぼうとしたかのように激しい非難に晒された。

しかし、氏の言っていることはそれほど間違っているだろうか。民主主義国ドイツにおいて公認されている党の議員が、普通選挙によって首長の座を勝ち取ったなら、それを認めるのが民主主義だ。そうでなければ、選挙民である自治体の住民の権利はどうなるのか。

CDUの混乱をよそに、欧州議会選へ

また、現実問題として、CDUはそろそろAfDと組める体制を構築しておかなければ、未来がなくなる。このままでは、これから続くいくつかの州選挙でも、25年の総選挙でも、CDUは再び社民党と緑の党の左派連合に弾き出される可能性が高くなる。

ただ、まずかったのは、メルツ氏はその少し前に、AfDの拡大を防ぐための「防火壁」を構築しなければならないと提言し、この言葉が炎上していたことだ。つまり、「防火壁」と、AfDとの共闘の勧めが矛盾してしまい、その揚げ足を取られて大騒ぎになった。

さらに氏はなんとその翌日に、今度は、「AfDとの連立を意味したわけではない」と、またもや前言を翻した。結局、この二転三転の無様さが仇となり、今や世間では、氏の政治生命の終了まで口の端に上り始めている。あたかもメルケル前首相の呪いのようだ。

こうしてCDUがギクシャクしている間に、AfDの全国党大会が7月28日、マクデブルクで開かれた。それに加え、29日、30日、さらに8月4~6日と、2度に分けて、来年6月のEUの欧州議会選挙に焦点を当てた大集会が開催された。