意識高い70代を蝕む「フードファディズム」という病

最近の日本人の食生活は、残念ながら、「長寿食」から離れつつあるようです。

と言うのも、いろいろな食材、食品をバランスよく食べるのではなく、特定の食材、食品を偏って食べる人が増えている傾向があるのです。

「フードファディズム」という言葉をご存じでしょうか?

いま、日本に限らず、先進国の食生活は、健康志向が高いあまり、この「フードファディズム」に陥りやすいのです。

「フード」とはもちろん「食物・食品」の意味。「ファディズム」とは聞きなれない言葉ですが、「偏愛」とか「熱狂」といった意味で、「流行かぶれ」というニュアンスもあります。

つまり、「偏愛」「熱狂」「流行かぶれ」が、「食物・食品」に向けられたときに生まれるのが「フードファディズム」です。

たとえば、「健康にいい」とか「血圧を下げる効果がある」と聞けば、その食品を重点的に食べ続けるようなことを言います。

あるいは、「納豆=免疫力を高める」という情報にこだわりすぎて、「私は納豆さえ食べていれば調子がいい」と勝手に思い込んでいる人がいます。これも「フードファディズム」に陥っていると言えます。

もちろんその逆に、「この食べ物は体に悪い」「血圧が高くなる」と聞けば、その食品を一切口にしないというのも「フードファディズム」でしょう。

先述の「百寿者」の項目でご紹介した、医学博士の柴田博先生は長年、「長寿の人は何を食べてきたのか」というテーマを研究しつづけた方です。「百寿者」の権威とも言える方です。

その柴田先生が、「フードファディズム」に警鐘を鳴らしているのです。

「長い風雪に耐えた食品」に、有害なものは1つもない

食べ物にはそれぞれ、さまざまな機能があります。

1つの食べ物が、すべての機能を発揮することはあり得ません。だからこそ「偏らない。何でも食べる」食生活が大事になってくるのです。

ですから、特定の食材、食品を偏愛、忌避することは、私たちの体にとって、何のプラスにもなりません。

実際、柴田先生も、「長い風雪に耐えて食べ続けられてきたものに、有害なものは1つもありません」とはっきり書いています。

「アミノ酸構成からみると、栄養学的には無用に見えるクラゲでさえ、ウニと和えることによって酒飲みにとっては極上のつまみになるのです」――柴田先生のこのような考え方に、私も共感します。

いくら体にいいとか、何かに効果があるといっても、同じものばかりを食べていればどうしても栄養が偏ります。

また、栄養学的には無意味でも、あるいは害があると喧伝されていても、その食べ物にしか含まれていない微量物質もあります。偏食をすることで、貴重な微量物質を摂取する機会を減らすことになるのです。

しかも年齢を重ねるほどに、たとえばセレンとか亜鉛とか、さまざまな微量物質が不足してきます。それが結果として、70代以上の心と体に意外に大きなダメージを与えることがあるのです。

60代半ば以降は、とにかく偏らないで何でも食べること。

これが老化を防ぐための「長寿食」につながるのです。