生理を犠牲にキャリアを積み、気づいたら不妊に
生理痛は、パフォーマンスの低下や婦人科リスクを高めるほか、不妊の入り口になることも少なくありません。私のところへ相談に来る女性たちの悩みは様々ですが、「妊娠したいのにできない」と悩んでいる方がおよそ半数か、それ以上を占めています。そのほとんどが、先ほどの彼女のような、生理痛に耐えながら、仕事を懸命に頑張ってきたキャリア女性たちです。
社会的地位も経済力もある現在を見れば、それまでにどれだけ自分の体に無理をさせてきたのか、容易にわかります。鎮痛剤やピルで生理痛をねじ伏せ、生理不順や無月経になっても、月経前症候群(PMS)になっても、会社では何も起きていない体裁を必死でつくろい、仕事を頑張ってきた女性たちです。
そしてようやく子どもを持つ余裕ができたときには、なかなか子どもができない年齢になっていたり、不妊の体であることに気づく……というわけです。
生理を大切にするためには、仕事をセーブするか、キャリアをあきらめるしかない。キャリアをあきらめずに仕事に打ち込むためには、自分の生理を犠牲にしなくてはいけない。私はこんな2択は、もう終わらせるべきだと、常々強く思っています。
「生理痛」で社会は年間5000億円を失う
生理か、キャリアか。この2択にしないためには、女性たちが自らの生理を痛みのない、健全なものにするケアを習慣にすることが、第一です。そのための具体的な方法については、本書(『生理痛は病気です』)の第2章以降で触れていきます。
第二に必要なのは、社会の理解です。それはどのような理解かというと、「女性の生理を健全にすると、社会が格段に豊かになる」ということを知り、女性たちの生理のために必要なサポートを、当たり前に用意・運用するということです。
社会が豊かになるというのはどういうことかというと、1つは文字通り、経済的に上向くということです。
バイエル薬品が15~49歳の女性を対象に行なった調査によると、月経に伴う症状による推定社会経済負担は、1年間で6828億円、そのうち、労働損失は4911億円にも上ることがわかりました(図表1)。