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紙ベースの非効率を改めるのがデジタル化の本質です

今回の事例は、東京都中央卸売市場だった築地市場を現在の豊洲へ移転する際に起きた大騒ぎと構造が似ています。現状のシステムに大きな課題があり、それを改善すべく策を打つが、移行期にあたり強烈な拒絶反応が起きて、その対応に当局が苦慮しているのです。

まず、前提を確認しておきたいのは、どれほど完璧に計算し尽くしても「100%瑕疵のない改革」などこの世には存在しないということです。いつ、誰が行っても、何かしらの問題が噴出するのが「改革」のリアル。そこをわかっていない人が多すぎます。

国民の皆さんも、これまでの人生「オール100点」とはいかなかったはずなのに、政治行政には100点満点を求める不思議。「改革」の結果が仮に80点だったとしても、30点の現状より前進しているならよしと納得し、残り20点の改善策を考えるべきです。

メディアもメディアで、噴出するミクロな問題ばかりを指摘するのではなく、国民全体にとっての最適解を探るべきです。「こんな問題がある」「ここも不安だ」と危機感を煽る記事のほうが注目を集めるという事情はわかるのですが、それだけでは社会全体の課題解決にはつながりません。

豊洲移転に関しては、日本の食の玄関口・旧築地市場が老朽化していることが最大の問題でした。建物の耐震性に懸念があることに加え、雨ざらしの構造、走り回るネズミといった衛生面の課題も深刻でした。しかし話が進むうちに、議論はこうした「核心的問題点」からどんどんズレていき、水道水として使うわけでもない豊洲の地下水が飲用には適していないことなど「周辺的問題点」ばかりがクローズアップされるようになりました。

女性会社員は彼女の机の上の書類の多くで困っています。
写真=iStock.com/Bignai
※写真はイメージです

一方、マイナンバーカード問題は、長年にわたる紙ベースの行政作業が非効率・不正確・不正の温床であることが改革の原点でした。紙ベースだとヒューマンエラーが起きやすく、紛失や不正受給、大災害時には消失するリスクもあります。そもそも1億人を超す国民情報をいまだに紙で保管・処理すること自体が不自然で、21世紀のテクノロジーを大いに活用すべきだというのが僕の持論です。

ただ、ここで改革を推進する側が肝に銘じておかなくてはいけないのは、人間は変化することのリスクには想像以上に敏感だということです。とりわけ日本人にはそうした保守的傾向を持つ人が多く、改革による将来のメリットよりも、直近のデメリットのほうを大きく見積もってしまいがちです。そのため「これを進めたら個人情報が洩れるのでは」「私たちの権利が脅かされるのでは」など思いつく限りの不安要素を想像し、解決すべき本来の課題が見えなくなってしまうのです。