「とりあえずビールで」飲み会の席でよく聞くそんなセリフ。だが、ビジネスエリートは会食で「日本酒」を選ぶことが多いという。その理由とは――。全国各地の酒蔵を訪問し、海外のSAKE事情にもあかるい日本酒ライターの堀越典子氏は、「日本酒の世界は、相手の心をつかむテクニックが満載だから」と解説する。学びのサイト「プレジデントオンラインアカデミー」の好評連載より、第1話をお届けします――。

※本稿は、プレジデントオンラインアカデミーの連載『最強のコミュニケーションツールになる一流ビジネスリーダーのための日本酒入門』の第1話を再編集したものです。

酒器で乾杯したくなる美味しそうな日本酒
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食通のビジネスリーダーが日本酒を選ぶ理由

接待や社内の親睦会、エグゼクティブとの会食――

そのようなシーンに際し、「いつもどんなお酒を飲みますか?」と聞かれたとき、あなたはどのお酒を選びますか?

多くの人が、なじみのある「ビール」と答えるのではないでしょうか。「乾杯」の一杯もビールを選ぶ人がほとんどでしょう。

一方で、経営者などビジネスリーダーには「日本酒が一番好き」と答える人が少なくありません。日本酒は、日本人の主食でもある“米”から生まれるお酒。ごはんを食べるときに感じるのと同じ甘味や旨味を、無意識のうちに“おいしさ”として共有できる安心感があります。和食はもちろん、イタリアンから中華料理まで、幅広い料理に合わせられる懐深さも、交換が持たれる理由かもしれません。

日本の歴史や風土、肌感覚としてもっている季節感を体現する飲みものであることも、日本酒の魅力でしょう。冬の新酒をはじめ、秋の“ひやおろし”や“秋上がり”、ここ10年ほどで増えてきた春限定の花見酒や夏酒など、四季の移ろいに敏感な日本人の感受性に訴えるバリエーションの豊かなこと。それぞれの旬の食材と合わせて味わい、刹那の喜びを確かめ合う時間は、ビジネスの会食にも気持ちのよい高揚感と余韻をもたらしてくれるでしょう。それこそが、会食の本来の意義でもあるはずです。

銘柄名や酒蔵の場所で相手の心をつかむ

また、日本酒は各ブランドが生まれるまでに蔵元の想いやストーリーがあり、その奥深さゆえに「ついつい語りたくなってしまう」ことから、最強のコミュニケーションツールでもあるのです。

日本酒というお酒には、共通の話題のきっかけとなる符丁が無数にあります。たとえば、産地について。日本酒は全国津々浦々、47都道府県でもれなく造られています。ということは、飲む人と同じ出身地、もしくは所縁のある地域のお酒が必ず存在するということ。

「この酒蔵、実家のすぐ近くなんですよ」
「うちの女房の故郷があって」
「蔵元の○○さんは大学の先輩でね」

こんな話の流れになれば、お互いの距離感もぐっと縮まろうというもの。地域の話題から発展して歴史、あるいは文化や芸術、スポーツまで、共通の関心事について語り合うムードづくりにも一役買ってくれそうです。