逆に言えば、接待の場面では、相手の出身地に合わせて日本酒をチョイスするような心配りが生かせる強みも。相手の苗字と同じ銘柄の1本(「あべ」「黒澤」「まつもと」etc.)を選んだり、応援しているプロ野球チームにちなんだタイトルのお酒(「安芸虎」「黒龍」「鯉川」etc.)を指定するなんていう粋なオプションもあり。ワインやビールではなかなかできない、心をつかむテクニックです。
当然、日本酒はどのブランドも味わいが素晴らしいものばかり。醸造技術、設備、原料、マンパワーともに進化と成熟を積み上げてきた令和の日本酒は、史上最高ともいわれるクオリティに達しています。味わい、香りとも幅広い個性が出揃い、好みの差はあれど粒揃いで外れなし。近年では若手の蔵元や杜氏(とうじ)が、日本酒業界を盛り上げるために研鑽を積み、年代を問わず多くのビジネスリーダーの心をつかむ酒を続々と生み出し続けています。
だからこそ、接待において日本酒選びは、プレゼンと同じくらい重要なことです。ハッとするような味わいに出会い、その日本酒をすすめてくれた人のセンスや見識に触れることで、信頼感と共感がぐっと高まります。では、ビジネスチャンスをつかめる1本、どのように選べばよいのでしょうか?
苦手意識がある人にも喜ばれる日本酒
取引先を初めて接待する会食の席で、高級感を意識した結果、日本酒の取り揃えとモダン和食の料理が評判のくずし割烹(創作的な日本料理)を選ぶこともあるでしょう。
場も温まってきたところで、「そろそろ次の酒を」というタイミングに。先方からは「日本酒なんてどう?」と提案があった場合、どのような日本酒を選ぶのが正解でしょうか? 「普段から日本酒は飲むが、これといってお気に入りの銘柄があるわけではない」という人も多いはずです。「学生時代に悪酔いでひどい目に遭った経験があり、いわゆる昭和の“ザ・日本酒”的な匂いや甘くどさには抵抗がある」という声も、少なくありません。
こんなシーンでおすすめしたいのは、「風の森」の秋津穂純米シリーズ。「風の森」といえば、日本酒好きが通う割烹や高級居酒屋のリスト、最近ではガストロノミーレストランやビストロのペアリングに登場することも多い銘柄なので、聞き覚えがある方も多いのではないでしょうか。
醸造元は奈良県で300年にわたる酒造りの歴史をもつ油長酒造。日本酒発祥の地といわれる奈良にあって、常に新しい技術を取り入れながら伝統を改変し、革新を重ねてきた精鋭蔵です。十三代目蔵元にして新世代のホープと目される山本長兵衛さんが手掛ける無濾過生原酒の看板ブランド「風の森」のうち、蔵のシンボルである米品種“アキツホ”で醸す純米酒。精米歩合の数値をナンバリングした「507(精米歩合50%)」「807(精米歩合80%)」などのラインナップがありますが、初めての人にはバランス型の精米歩合65%の「657」がおすすめ。蔵元が“スタンダード”に掲げる、シリーズの代表酒です。