企業にとってターゲットとなる顧客も競合相手も刻々と変化するビジネスの最前線においては、不測の事態に即断即決して自らのCを動かし、対処しなければならない。攻め時を誤れば機会損失につながるし、撤収が遅れれば部隊が全滅する恐れさえある。

そうした判断能力を最も実戦的に身につけているのが、戦争の現場で部隊を預かった経験のある将校クラスの軍人だ。ウォールマートなどは伝統的に軍隊から人を採ってきているが、それは規律が取れているという理由から。今、米企業が軍隊経験者に求めるのは、この要素に加えて戦況の変化に即時対応して進路を見つけ、組織を臨機応変に動かす能力なのだ。

実際、大学卒業後にビジネス界に進んだ同世代よりも若くして多くの人間を率いた経験、そして戦場で予測不能な事態に対処した経験が高く買われるという。

米陸軍士官学校の卒業式。今や、将来のビジネスエリートの卵として期待される。(AP/AFLO=写真)

なかでもGEは、軍人の採用に以前から前向きで全体の14人に1人、1万人以上の軍隊経験者がいるとされている。会長兼CEOのジェフリー・イメルト氏は、「予測不能な緊急事態が起きたときに最も素早く対応できるのは、軍隊でトレーニングを受けた若手のエリートだ」という。ハーバードやスタンフォードといった一流のビジネススクールを出た人材は紋切り型のフレームワークだけは豊富だから、想定可能な当たり前の状況に当たり前の答えは出せる。しかし異常な状況、修羅場に直面したときに即座に答えを出して、その方向に組織を牽引する力はない。

イメルト氏の言によれば、ビジネススクール出の人材を採るより、ウエストポイント(米陸軍士官学校)やアナポリス(米海軍兵学校)などを卒業し、アフガニスタンやイラクなどで実戦経験のある将校を連れてきて、ビジネススクールに送り込むほうがよほど使える人材になるという。

私も同じ思いから企業で実際に働く人々が経営実務をインターネットで学べる大学院大学を設立したが、日本の文科省の設置審査では既存の大学の教授陣から「アメリカ型の理論とフレームワークを入れろ」と難癖をつけられて認可が大幅に遅れた経験を持つ。教育機関がますます役に立たない人間を量産する理由を垣間見た気がした。海外では軍人に経営の勉強をさせている時代に、日本はアメリカの学者が30年前に考えた経営理論を強制しているのである。