トヨタは全方位戦略で遅れを取り戻せるのか

ところが、この流れに日本勢だけが乗っていない。トヨタは社長が交代したにもかかわらず、全方位戦略を捨てていない。2023年4月に就任した佐藤恒治社長は、BEVに関して「2026年までに新たに10モデル年間150万台」という販売目標を掲げたものの、「トヨタはマルチパスウェー(全方位)でやっていく」と明言した。

それは、「EV」(BEV)もやる。「HEV」(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド車)も「PHEV」(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:プラグイン・ハイブリッド車)もやる。「FCV」(Fuel Cell Electric Vehicle:燃料電池車)も従来のガソリン車もやるというものだ。

豊富な資金と高度な技術を持ったトヨタだから、BEVの遅れを取り戻すことは可能だという見方がある。しかし、後発者がほぼゼロから、すでに市場をつくってしまった先発者を捉えることは、これまでほとんど例がない。

しかも、BEVはクルマとはいえ、電子機器である。ガソリン車とはまったく違うものと考えなければならない。スマホは電話が進化したのではなく、コンピュータが電話機能を持って小型化したものである。これと同じで、BEVは従来のクルマの概念で捉えるべきではない。

“電脳マシン”を作るにはソフト開発が重要

クルマの電動化によって訪れたシフトチェンジは、近年、「CASE(ケース)」と言われるようになった。「C」は「Connectivity」で接続化、「A」は「Autonomous」で自動化、「S」は「Shared&Service」で「シェア化&サービス化」、「E」は「Electric」で電動化。

インターネット、AI、5G、クラウド、IoTなど、さまざまなテクノロジーの進展のなかで、クルマは「CASE」の方向で進展を遂げていかねばならないというのだ。

となると、BEVは従来のクルマのように単体で存在している“走るマシン”ではなく、常時ネットに接続された“電脳マシン”である。つまり、ハードよりソフトのほうが重要であり、ソフトウェアの開発が鍵を握ることになる。そして、その中枢を担うのがOSである。

しかし、従来の自動車メーカーは、こうしたソフト開発が苦手である。トヨタはソフト開発がとくに弱い、苦手だと指摘する専門家がいる。