酒の神のおともをする半獣神が拾った、いわくつきの縦笛

「犬も歩けば棒に当たる」という言葉には「行動するとひどい目にあう」と「行動するとラッキーなことがある」の正反対の意味がある。さて、この話の主人公・マルシュアスが行動した結果がどっちだったのか、見てみよう。

マルシュアスは、にぎやかな飲み会が大好きな酒の神・ディオニュソスのおともをする、サテュロスという半獣神族のひとり。そして、楽器を演奏するのが得意な、音楽好きだ。

ある日、マルシュアスは、アウロスという、根元から2本に分かれた見事なたてぶえを拾った。超がつくほどの音楽好きで楽器の名手だ、「犬も歩けば棒に当たる」、拾えてラッキーってなものだったろう。しかし、このアウロス、いわくつきのヤバい楽器だったのだ。

と言うのも、技術の女神・アテナが発明したもので、とてもいい音色を出す。楽器にはな〜んの問題もない。だが、ある日、アテナが気分良くこのたてぶえをふいていると、結婚の女神・ヘラと、愛と美の女神・アフロディテが笑って言った――。

「あ〜た、ふえをふくとき、ほおをふくらませた顔がおかしくてよ、ホホホ」

「音楽の神に並ぶ音色だ」高い評判があだとなる

ま〜、そんな余計なひと言で、アテナはアウロスをイヤになって捨ててしまったのだ――「アウロスをふいた者には、災いがふりかかれ!」と八つ当たりの呪いをこめて……(そこまでする⁉ ってとこ、いかにもギリシャ神話的)。

そんなことなど知るはずもないマルシュアス、アウロスのふき方をすぐにマスターすると、ふいてふいてふきまくる。その音色を耳にした精霊たちは、思わずうっとり♪

「マルシュアスのふえは、音楽の神にならぶ」
「世界一の音楽家はマルシュアスだ」

なんて、みんなから大いにほめられまくって、マルシュアスもいい気分。「犬も歩けば〜」で言えば、ふいて聞かせる行動によって、ほめられてラッキー。しかしこの評判が余計だった。ラッキーは、ここまで。アテナの呪いの発動だ……。