ホンダ・インサイトの開発の場合は初期にチーム全体で試乗会を重ね、コンセプトを共有した(>>ホンダ・インサイトの記事)。一方、大塚はリーダーとしてのコンセプト固めと目標設定に半年を費やした。これは後に大きな意味を持ってくる。

三代目プリウスにはユーザー層拡大の使命も与えられていた。二代目は50~60代が中心。これを30~40代へ広げる。そのため、「低価格も当初からテーマには入っていた」(大塚)。燃費と低コスト。二律背反はインサイトのケースと重なるが、どちらがより重要か。それは最も苦労したテーマに表れた。プリウスの場合、燃費だった。38キロの壁が立ちはだかった。大塚が話す。

「初代から12年。ハイブリッド技術はかなり成熟し、一発で燃費を稼げる飛び道具はなく、積み上げるしかありません。各部門が絡み合い、問題が発生する。その調整が難しかったのです」
大塚は押し寄せる問題をいかに解決したのか。そこにトヨタのCE制度の神髄が表れる。そのプロセスを見てみよう。

開発プロジェクトはホンダの例と同様、縦割りの各技術部門に横串を通して組まれた。ただ、トヨタではエンジンやハイブリッド技術を担当するパワートレイン部門は一定の独立性があり、統括は部門リーダーにある程度委ねられた。CEは主にボディ、シャーシなど車両系を統括しながら全体の進捗に責任を持つ。

「進め方はこうです。燃費性能について、どちらがどの割合を受け持つか、車両側とパワートレイン側とで契約し握る。ところが、その後誤算が生じ、自分の部門で解決できない分を相手方に肩代わりしてもらわなければならない場面が出てくる。どちらもギリギリの設計をしているので、それは容易ではありません」

また、ハイブリッド車特有の問題もあった。エンジンとモーターを搭載し、状況によりどちらか一方か両方を使い、高燃費を実現する。2つの動力源はそれ以外にも互いの長所を活かせるため、設計の自由度が増す。例えば、エンジン冷却水の循環ポンプも、従来はエンジンの力で回していたのを電動化した。その分、複数の機能が関連し、一つの案件を決めるのに多くの部署がかかわるようになった。複雑な多元方程式のように解決は困難を極め、解次第で燃費が左右された。ここでCEの調整力が発揮された。

「私はメンバーにこういいました。できない理由は持ってくるな。やれるとしたら何ができるか、コストや質量は気にせず、一度出してみろと。足かせを外し、技術的に成り立つものを持ってこさせると、場が前向きに変わる。互いに相手の立場も考えるようになって、経験知も働き、こうやるのが一番いいよねと決められる。根底にあるのは、和の精神です。CEが常に全体最適を考えていれば、大きく揉めることはありません」

(増田安寿=撮影)