※本稿は、齋藤孝『60歳からのブッダの言葉』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
全ては移り変わるもの
初老というのは、どれくらいの年齢のことでしょうか?
もともとは40歳の異称でしたが、現在では60歳前後あたりからが初老ではないでしょうか。やはりここでも還暦を一つの区切りにしてもいいと思います。
この年齢、すなわち初老になると、総じて怒りっぽくなったり、イライラしたり、不安に襲われたりしがちです。ただでさえ頭が固くなっているところに、還暦を境にほとんどの人は、仕事やプライベートでの環境が大きく変わります。
その変化に対応できず、フラストレーションやストレスがたまる。それがイライラや怒りにつながっていく。
よく、偏屈な年寄りを「頑固ジジイ」と言いますね。心が頑なで頭が固いから、頑固。つまり自分の考え方に固執する人が、すぐイライラして怒りっぽくなるわけです。
そのイライラや怒りが自分に向かってしまうと、自信を失ったり、自分を責めてふさぎ込んでしまう。
「初老性うつ」ということで、最近は特に注目されています。
その点、仏教は素晴らしい処方箋を与えてくれています。
仏教の「諸行無常」の教え
仏教には皆さんご存じの「諸行無常」という言葉があります。
(『真理のことば』277)
これは仏教の根本的な教えである三法印の教えの一つです。
・諸法無我 すべては因縁によって生じたもので、自分自身もそれらの関係性の中で生まれたものであり、実体はないという真理。
・涅槃寂静 諸行無常と諸法無我を見極めることで、執着を失くし、涅槃という悟りの境地に至るという真理。
すべては移ろい変化してゆく。仕事で頑張ってきた自分も、50歳、60歳となるとやはり立場や役割が変わってくる。変化していくわけです。
それなのに、昔の元気な自分に執着したり、自分の考え方に執着するから変化に対応できず怒ったり、悩んだりするわけです。
これを最初に見極めて、この世の真理だとしたブッダは、やはり素晴らしい。
「しょせん、すべては諸行無常だからね」と言われて、「あ、確かにそうだ」と気づく。自分が執着し捉われていたものは、実は常に変化するもので、実体もないのだと目が覚めるわけです。